教育・研究トピックス

丸山優樹さん:セネガル・サンルイでの半年間の滞在記録 ③

生命環境科学研究科
国際地縁技術開発科学専攻
3年
丸山 優樹

● 研究生活

インターンシップ制度を活用して滞在したAfrica Rice Center (アフリカ稲センター)は、コートジボワールに本部を置き、地域研究所をベナンやセネガルに持つ国際研究機関である。アジアでの緑の革命を先導した国際稲研究所(IRRI)とも同一のグループに属しており、アフリカ地域のコメ生産量を大幅に増加させた新品種NERICAの開発に大きく貢献した研究機関である。そのため、西アフリカ地域のコメの生産から消費に関わる、ほとんどの研究を同研究所が主導している。筆者が滞在したセネガルの地域研究所は、一大コメ生産地域であるセネガル川流域の稲作振興に関わる研究が推進されている。同研究所は、広大な圃場を同流域に確保する観点から、サンルイの市内から30km程度北上した所に位置する。そのため、研究者が通勤するために、送迎バスが毎朝7時に迎えに来る。また、研究所周辺には、レストランはおろか、飲料水を購入できるお店も存在しないため、16時に出発する送迎バスへの乗車は死守すべき日課である。このように終わりが決められた研究生活は、限られた時間内で作業をこなす最大のモチベーションとなり、日本にいる時よりも作業効率は飛躍的に向上していたように思える。
現地滞在中の目的は、モーリタニアにおける稲作農家の生産性・経営状況の把握であった。図1からも分かるようにモーリタニアはセネガル北部が国境を接する国であり、セネガル川が国境線となっている。同国は、国土の80%が砂漠に覆われているために産業開発が思うように進まず、国連の区分では最貧国の1つに指定されている。そのため、水資源が唯一豊富に存在するセネガル川流域での食糧生産(特に主食であるコメ生産)基盤の構築は、喫緊の課題となっている。その一方で、研究環境が未整備なために、コメ生産に関わる既往研究は殆ど存在しない。そこで筆者は、研究環境が整っている上に、モーリタニアへも渡航が容易なAfrica Rice Centerの研究所を拠点として、研究を進めることとした(写真13)。

 

写真13:毎週月曜日と金曜日はティータイムが設けられている(@Africa Rice Center)

 モーリタニアの稲作農家は、作業日誌のつける習慣がなく、アンケート調査での正確な営農状況の把握が難しいことが既に報告されている。そのため、長期滞在を活用し、毎月、対象農家へのアンケートを実施することでデータの信ぴょう性向上を試みた。毎月上旬に調査票を持参し、国境の町ロッソから、フェリーでセネガル川を渡りモーリタニアを訪れた。そして、アンケート協力者に調査内容を説明し、実査に回収されたデータの確認・修正作業などを行っていた(写真14)。
これまでに収集されたデータから、農家の多くが営農に必要な費用のほぼ全額を銀行からの融資によって賄っており、その結果、収穫後の返済を懸念し、より低コストで実施できる稲作技術や多収量品種の導入を敬遠するなどの興味深い状況が浮き彫りになってきた。

 

写真14: モーリタニアでの農家調査実施前の説明会

 

コロナ禍と今後の研究活動

新型コロナウイルスは欧米での感染拡大に合わせ、徐々にアフリカ大陸にも広がり始めた。セネガルでは、2020年3月2日に新型コロナウイルス感染者が初めて発見されて以降、毎日20名程度ではあるが、徐々に増え始め、現在では約2000名の感染者数となっている。WHOが警鐘を鳴らしている通り、アフリカ地域には感染予防を徹底できない状況も多く存在し、医療体制の脆弱性も相まって、ひとたび感染が拡大すると多くの死者が出る可能性がある。
このような状況を危惧し、感染が拡大する前から大変厳重な予防措置を講じる国も多い。セネガルも同様に、政府は感染者数が100名前後の3月19日に全ての空港及び港を封鎖、21日には隣接国に繋がる全ての国境を封鎖した。さらには、24日付けで全土に非常事態宣言を発令し、夜間外出禁止や州間移動の原則禁止等の措置が発表された。これらの措置により爆発的な感染者の増加は抑制されているものの、感染経路の把握が困難な場合も多く、緩和措置を発出するタイミングが読めない状況にある。この状態が長引くと、ただでさえ脆弱な経済基盤の下で発展を続けているアフリカ諸国では、経済の衰退は明らかであり、今後は情勢不安につながる危険性も懸念されている。
上記背景から、日本の外務省は、出国が困難な状況に鑑み、セネガルの感染症危険情報レベルを2に引き上げると共に、可及的速やかな帰国を滞在する邦人に向けて要請した。しかしながら、空港が封鎖されている状況下では商用便による帰国は難しく、帰国方法を模索する日々が続いていた。
そのような中で、西アフリカ各国の日本大使館が協力し、チャーター便を手配、エチオピア経由で帰国する方法が提案され、筆者もこの方法で帰国を実現した。同帰国方法は、アフリカ諸国の邦人救出作戦といっても過言ではなく、まず、エチオピアから成田への特別便2機が用意され、それ向けて、各国からチャーター便で集合する流れであった。筆者の搭乗したセネガルからのチャーター機は、離陸後、ギニアとコートジボワールを経由し、エチオピアへ向かった。この他にもケニアやカメルーンからもチャーター便が運航された。特筆すべき点は、日韓の協力である。チャーター便や特別便は、搭乗者数によって負担額が大きく変動する。そこで、韓国人の帰国希望者も募り、日韓共同便として運営された。日韓外交には依然として暗雲が立ち込めているが、国外では密接な協力体制が構築されている。
今後の研究活動に関しては、現地研究者とオンライン会議システムを活用して継続予定である。特に、モーリタニアの稲作農家に実施している毎月の農家調査は、依然継続中であり、今後もメールによって調査票を配布し、現地研究者主導のもと、アンケート調査を毎月実施している。また、現地での感染拡大防止のために、対面式の聞き取り調査ではなく、電話で聞き取り調査を行っている。
このようなオンライン環境での研究及びインターンシップの継続に理解を示し、迅速に対応してくれたAfrica Rice Centerに大変感謝している。セネガルでの滞在及今後のオンライン環境下での研究によって得られた研究成果を自身の博士論文や投稿論文に生かし、少しでもAfrica Rice Center並びに西アフリカ地域のコメ増産に貢献できるように全力で取り組んでいく。

写真15 : 空港でチャーター機を待つ日本人及び韓国人

 

 

謝辞:
本セネガル滞在には、2019年度後期(第11期) 官民協働海外留学支援制度~トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム(助成番号: S192E121020010)の助成を受けております。
現地での農家調査には、一般社団法人アフリカ協会による、サブサハラ・アフリカ奨学基金(2019年度上期)の助成を受けております(助成研究題目: セネガル川流域における消費者ニーズに即したコメ生産による自給率向上がもたらす社会経済的効果の評価)。
また、Africa Rice Centerでのインターンシップ活動は、同研究機関に所属する齋藤和樹博士、Mandiaye Diagne博士や本学大学院に所属する飛田八千代さん、指導教員の氏家清和准教授のご協力無くして実現しておりません。現地農家調査では、モーリタニア高等技術学院のCherif Ahmed教授に多大なご協力を賜っております。さらに、緊急帰国に際して、在セネガル日本大使館の職員の方々、本学学生交流課及びグローバル・コモンズ機構の方々には大変お世話になりました。この場をおかりして御礼申し上げます