卒業生の声

社会で活躍されている卒業生・修了生の活動を紹介します。

No.46 【卒業生の声:番外編】 研究室よもやま話②  画竜点睛
生命環境系 准教授
徳永 幸彦
1986年筑波大学 第二学群 生物学類
1991年筑波大学 生物科学研究科 生物学専攻

 

世界中がまだパワーエコロジストで満ちていた時代、1,2年のデータで生態学の論文を書くなんてナンセンスだった。論文のマテメソには、観測日数何日とか、総走行距離何kmとか、研究に費やした労力を誇示する情報が盛り込まれていた。

3年経ったら何か見えるかと思った鷺たちのコロニーの研究は、その後何年経っても餌場とコロニーの位置の関係を見出すことは出来ず、徐々に「こいつら、ただこの場所が好きなだけじゃあないのか?」という疑いを持ち始めていた。この Site Fidelity 理論が論文として認められた時には、25年余りの歳月が流れていた。まさにアホの成せる技である。益子さん(本HP<卒業生の声)は、このアホの所業に画竜点睛を加えてくれた。

私自身が博士を取った直後にテニュア職を得て始めた研究は、人工生命。人工物で生命様のものを作り、それを生物だと思い込んで研究する。そんな研究にくそ真面目に取り組む研究者たちは、自らを Abnormal Scientist と呼んでいた。誰かのやってきた研究の延長線上ではなく、自分が最初の研究に何の衒いもなく勤しむ。これもアホの成せる技である。先人の肩の上から見る世界も絶景かもしれないが、誰も見たことのない初めての景色を見られることも、Abnormal Scientist の醍醐味である。今の若い研究者も人生のどこかで一度、Abnormal Scientist を味わう余裕があればいいと思う。

人工生命の副産物が、コンピューターにまつわる様々な技術の習得である。コンピュータープログラム以外にも、自分独自のハードウェアの構築やネットワーク管理技術など、生物専門とは思えない専門知識と技術を身につけた。これらの技術は学生に部分的にでも受け継がれ、それが彼らの就職を有利にしたと思っている。

益子さんが自分でも書いている通り、当時の研究室にはコンピューターの得意な先輩たちがいたが、彼らにネットワークの管理を任せるよりも「この学生がそんなことできるはずない」と思われるような学生が、見事に管理運営ができたら、これらお兄ちゃんたちに「ほーら、益子さんだってできるんだぞ!ボーっと生きてんじゃねえよ!」と喝を入れることができると考えた訳である。結果は予想以上で、益子さんのIT技術への適応能力は非常に高かった。御の字である。

(本稿は、生命環境HPに掲載された<卒業生の声>に合わせ、当時の指導教員、本学の卒業生でもある徳永幸彦准教授が執筆したものです)


筑波大学生命環境系
徳永 幸彦 准教授