卒業生の声

社会で活躍されている卒業生・修了生の活動を紹介します。

No.45 【卒業生の声:番外編】 研究室よもやま話① Laissez-faire, Let it be, Que Sera Sera
生命環境系 准教授
徳永 幸彦
1986年筑波大学 第二学群 生物学類
1991年筑波大学 生物科学研究科 生物学専攻

学類生の時に、一学年年上の先輩に憧れた。その先輩は1年生にして、研究室の机を要求し、学会で発表し、採集のために日本中を飛び回っていた。先輩を受け入れた研究室の大学院生も、アマチュアとプロの違いを厳しく諭しながら、先輩を育てていた。自分も早く先輩のように研究がしたいと強く思った。
自分が生物科学専攻を終了して間もなく、関連学会で発表をしていた時、「あなたはどこの出身ですか?」とよく聞かれた。なぜ、このような質問をされるのか、最初は意味がわからなかったが、確かにある研究者がどこの出身かは、話している内容や使っている手法で予測がつくことがある。

私の場合、指導教員がK大出身で、兄貴分の同業者も皆、K大出身者だった。K大には「サムライ」という概念があり、学生の勝手を、Laissez-faire, Let it be, Que Sera Sera とやってのけることを意味している。全て自分で道を決め、自分で極める。そして、そこには、きちんと科学的吟味をした上で、そんな勝手を受け入れる教員や先輩方がいるからこそ成立する教育システムがある。

職を得た後、数年、共同研究を展開した「天の川」の向こうの工学の研究室を率いる先生もK大出身だったためか、私にはK大の匂いが多少ついてしまったらしい。その癖、K大とは思えない側面が色濃く出ているため、他の研究者を困惑させたのだろう。
海外で発表したりする時も、やはり「あなたはどこの出身ですか?」とよく聞かれる。今では、これは勲章なのだと理解している。

どこから来たのか分からず、誰にも似ていない。これこそが、大野-鈴木さんが表現している「砂利道」の向こう側にある風景だと思う。砂利道には往々にして誰も観客が居らず、場合によっては論文発表しても10年間、まったく引用されないこともある。

しかし、たかが10年先を見据えることなく、今、差し当たって役に立つ研究だけやっていて、大学の教育は成り立つのか? 昨今、強化されている、大学院でもきちんと授業をしようという動きも、Laissez-faire, Let it be, Que Sera Sera をめざす学生を抑えつけることにはなっていないか? 大学院生にもなって、何を自分で学ぶべきか分からない学生に、何を教えるつもりなのか?  学位プログラムが、Laissez-faire, Let it be, Que Sera Sera な学生を育てる手段として機能して欲しいと切に願う。

最近、私の研究室には、生物学というより情報科学に強い学生が屯している。鳥追いのための爆音機を電子的に作ろうとした時、爆弾の爆発音をブラウンノイズとピンクノイズを合成して作り出すことを知っていたり、大学の統一認証IDの最後の一文字の導出方法を知っていたりする。

学会の懇親会で他の大学の学生たちと一緒に議論する時も、かなりネジの外れた議論が展開される。私自身、彼らの議論は、時に三割ほどは分からないことがある。しかし、若い頭が熱気に溢れ、議論を戦わせているのは、見ていて実に楽しい。懇親会がお開きになった時、他所の学生に「つくばって面白い学生が集まっているんですねぇ」と言われることが増えてきた。
これも勲章だと思う。

(本稿は、生命環境HPに掲載された<卒業生の声>に合わせ、当時の指導教員であり、本学の卒業生でもある徳永幸彦准教授が執筆したものです)


筑波大学生命環境系
徳永 幸彦 准教授