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生物資源プロセス工学研究室

原 田 助教 YUAN, Tian

廃棄物と廃水から宝物を生み出す~微生物の力~

地球規模の環境課題

日々の暮らしの中でたくさんの「ごみ」が生み出されていること、たくさんの水が使われていること、気付いていませんか?毎日の食事で食べているお米、野菜、お肉を生産するために、大量のもみ殻、稲わら、野菜残渣、家畜ふん尿等が発生されていること、考えたことがありますでしょうか?これらの廃棄物や廃水に有機物や窒素、リン等の汚染物が含まれており、適切に処理しないと、有機物の分解や焼却によりCO2や有害な気体成分を排出し、地球温暖化や大気汚染の原因となるほか、窒素とリン等の栄養塩は河川や地下水の汚染を引き起こしてしまうのです。
一方で、有機物にエネルギーが蓄蔵されており、窒素とリンも大切な肥料資源でもあります。近年、化石燃料やリン等肥料原料となる鉱石資源の枯渇問題が懸念されており、特に日本では、エネルギー自給率はわずか12%、リン、窒素、カリウム等の肥料原料はほぼ全量輸入に依存している現状があります。最近、国際情勢の影響を受け、これらの課題を顕在化しており、電気代の高騰、食品や生活用品の値上げはすでに私たちの生活に多大な影響を与えています。こういった現状に対応するには、再生可能エネルギーの創出と資源の循環再生利用の促進が早急に取り組むべき課題となります。
廃棄物と廃水の処理には種々の方法があり、複数を組み合わせて多段階処理を行うことが多いですが、その中で主な処理プロセスは、自然界に存在している特定の微生物集団を利用しています。例えば、生活廃水の処理に使用している活性汚泥法は、曝気により酸素を好気性微生物に供給し、廃水中の有機物、窒素とリンを除去させています。農畜産廃棄物のたい肥化処理において、好気性微生物を利用して有機物の無機化を促進させ、窒素とリンは植物に吸収しやすい形態に変換し、最終的に有機肥料として循環利用できます。しかし、これらの処理法では、有機物はCO2等の温室効果ガスに変換され、窒素は窒素ガスとして大気中に放出されてしまうのです。地球温暖化、環境汚染、資源枯渇等地球規模の環境課題を解決するために、新技術の開発に努力し続けなければなりません。

生物資源プロセス工学研究室

私たちの研究室では、前述した地球規模の環境課題の解決ならびに循環型社会形成のため、生物学的処理法を基盤とし、廃水・廃棄物の資源化、バイオエネルギー変換等に関する基礎的かつ応用的な研究を行っています。現在、研究室に約40名の大学院生を在籍しており、研究対象により、水グループとバイオマスグループに分かれています。水グループでは、雷中方(LEI Zhongfang)准教授を指導しており、廃水処理と資源化の新技術「藻類-細菌グラニュール汚泥法」に関する研究を行っています。バイオマスグループでは、原田(YUAN Tian)助教を指導しており、廃棄物処理と資源化のための「メタン発酵法」に基づく新技術の開発研究とメタン発酵消化液利用に関する基礎研究を進めています。

メタン発酵に関する研究課題

(1)低コストかつ高効率な新規メタン発酵法およびバイオガス改質法の開発研究
メタン発酵は、「嫌気性消化」とも呼ばれます。嫌気性微生物を利用し、無酸素環境で有機廃棄物を分解し、メタン(CH4)とCO2を主成分とする「バイオガス」に変換できる技術です。バイオエネルギーを生産しながら、廃棄物からの温室効果ガス排出を抑制できることから、CO2削減のために非常に重要な技術です。しかし、現状では、メタン発酵の応用コストが高い、固形物濃度が高い農畜産廃棄物の処理に応用が進まない、酸化等によるメタン生成阻害が発生しやすい、バイオガスの発熱量が低い、等の問題があります。これらの問題を解決するため、新規技術の開発研究を進めています。

図1 開発したバイオガス循環によるバイオガス改質法のメカニズム解釈図  (Yuan et al., 2022

(2)メタン発酵消化液の有効利用のための基礎研究
メタン発酵後に残る液体は「消化液」と呼ばれ、無機化した窒素、リン等の栄養素が豊富に含まれるほか、安定化した有機質も多く、植物の成長を促進できる効果が発見されています。最近流行っている水耕栽培や植物工場に化成肥料の代わりに利用できれば、安くて健康な野菜づくりに貢献することが期待されます。しかし、消化液は自然由来のもので、成分が複雑であり液肥としての効果と安全性が懸念されることも多くあります。そこで、本研究室では、消化液の植物成長促進効果を科学的に評価・解明するため基礎的な研究に取り組んでいます。
最近、炭素排出量の削減に貢献できる藻類に基づく廃水処理技術に注目を集めており、本研究室は、消化液の効率的付加価値化に資する藻類のスクリーニングと産出物の機能評価研究に挑戦し始めたところです。

図2 レタスの水耕栽培実験

図3 藻類の分離と培養

研究の進め方

研究の実施には、実験室で分光光度計やガスクロマトグラフィー等を用いた分析が基本的ですが、最近、張振亜(ZHANG Zhenya)名誉教授が主導されている研究プロジェクトでは、つくば市内で実験農地も設けました。そこで、メタン発酵や廃水処理の最新技術の実証実験を進めています。
本研究室を拠点とした国際学会組織が昨年で創設され、毎年恒例の国際会議や学術セミナーを開催しています。環境分野の著名な研究者の招待講演や若手研究者たちの研究発表を通じで、国際的な研究交流の場を提供しています。詳細は下記参考WEBのリンクをご覧ください。

おわりに

幅広い研究を実施している研究室ですが、研究を進めるうちに、未知が溢れてくることも多く、興味が持ち続けるのです。廃棄物や廃水は身近にあるものですが、いかに環境への負荷を減らせ、持続的社会づくりに貢献できるのか、私たち一人ひとりの考えと努力が必要です。環境のために何ができるのか、一緒に考えてみませんか。

図4 2023年9月修了式後の集合写真

 

参考WEB


一般社団法人 国際バイオプロセス・サステナビリティ学会
(International Society of Bioprocess and Sustainability)

研究室紹介の動画 : UT Laboratory of Bioresource Process Engineering

 

研究室教員 Researchgate
雷 中方 Zhongfang Lei
原 田  Tian Yuan

研究者総覧 TRIOS


原 田