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個性豊かな研究室を紹介します。

生物海洋学研究室
BIOLOGICAL OCEANOGRAPHY LAB

和田 茂樹 助教 WADA Shigeki

~下田臨海実験センター 生物海洋学研究室~

生物学を研究していると言うと、「何の生き物をやっているの?」と聞かれたりしますが、我々の研究室は特定の生物では無く、生態系という少し広いくくりで研究をしています。生態系には、生物だけでなくそれを取り巻く環境が含まれており、生物と環境の相互作用は生態系の成り立ちを決定づけるとても重要な因子です。

生物の活動は、周囲の環境に大きな影響を及ぼします。例えば、大気中の酸素は我々の生存に欠かせないものですが、これは生物活動によって地球上にもたらされたものです。この他にも、生物は周囲の環境に様々な影響を与えており、それが今の地球環境が形作られる上で重要な要素となっています。一方で、環境の変化が生物に及ぼす影響も重要です。特に近年、気候変動に代表されるように人間活動に伴う地球環境の劇的な変化が生じる中で、環境の変化が生物に及ぼす影響を知り将来予測を行うことが、人類全体にとって大きな課題となっています。

藻類群集の光合成測定

 

研究紹介

生物が持つ環境への影響:炭素の海洋隔離

海洋の一次生産者である植物プランクトンや海藻類などは、光合成で二酸化炭素を取り込み有機物に変換します。有機物は様々な過程を経て、その一部が深海・堆積物中に輸送・埋没され、数千年というタイムスケールで隔離されます。つまり、二酸化炭素が生物活動を介して形を変え、海の中に保存されているわけです。例えば、植物プランクトン由来の有機物が深海へ隔離され、海洋への炭素吸収に寄与する過程を生物ポンプと呼びますが、生物ポンプが止まってしまうと大気の二酸化炭素は3倍に跳ね上がると言われるほど重要な過程です。これらの仕組みを明らかにするために我々は、一次生産者の光合成の大きさに加えて、作られた有機物が輸送・隔離される過程を評価し、海洋の炭素隔離機構の解明に取り組んでいます。

藻類群集の光合成測定

環境の変化に対する生物・生態系の応答:海洋酸性化

人間活動に伴って放出される二酸化炭素の一部は、大気から海へと吸収されています。これは温暖化の抑制機構として働いている一方で、水素イオン濃度の上昇(pHの低下:酸性化)という海水の化学的性質の変化を引き起こしています。この現象は海洋酸性化と呼ばれており、生物活動に対して甚大な影響を及ぼします。貝やサンゴの殻や骨格を形成する炭酸カルシウムの合成が阻害されることが、しばしば大きな問題として取り上げられることがありますが、それ以外にも代謝過程や遺伝子発現など様々な影響が懸念され、さらにその影響が生物種ごとに大きく異なります。このような多岐にわたる影響が、種多様性の大きな海洋生態系の将来予測を非常に難しいものにしています。

生態系の変化を包括的に評価する上で、海底から二酸化炭素が泡となって吹き出す海域「CO2シープ」が注目されています。噴き出した二酸化炭素は周りの海水に溶け込み、自然の生態系であるにもかかわらず、二酸化炭素の増加した未来の海のようになっています。この未来の海の様子を観察することは、そのまま将来の海の生態系の予測となることから、海洋酸性化の将来予測の切り札として、世界でも注目されています。我々は、伊豆諸島式根島において新たなCO2シープを発見し、二酸化炭素濃度の違いが生態系の劇的な変化をもたらすことを明らかにしてきました。二酸化炭素濃度の高い海域では、サンゴや大型の海藻の量が著しく減少し、海底が小さな藻類に覆われて単調な水中景観に変化します。このような特異な海域を利用し、生物の種構成や代謝過程、生物間の相互作用などに基づき、生態系の将来予測をしています。

式根島CO2シープでの海藻の脱離試験

 

研究に興味がある方へ

研究者の活動は、個人プレーなイメージがあるかもしれません。確かに、自分の考えや主張をしっかり持つことは必要なのですが、思いのほかいろんな人たちと協力しながら進めることがたくさんあります。自戒も込めてのメッセージですが、研究を進める上で直接的・間接的に関わった方々に感謝しながら自分の研究を進めていくと良いと思います。

下田沖の海中に観測機器を設置している様子

 

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和田 茂樹