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個性豊かな研究室を紹介します。

生物資源学類/生物資源科学学位プログラム/自然保護寄附講座 
森林生態環境学研究室

佐伯いく代  准教授 SAEAKI Ikuyo

「人と自然のかけ橋」 森林生態環境学研究室

 

私は、人が豊かな生活を送りながらも、自然やほかの生き物と共存できる方法を知りたいと考えています。そのためには、①自然の特徴や仕組みを理解すること、②それとうまくやっていくための方策を考えること、の二つのアプローチがあり、その両方について保全生態学や自然保護学の観点から研究を進めています。

 

図:希少植物の保全活動を行っている湿地にて。

1.生きもののにぎわいを保全する

地球上には、大変多くの生き物が暮らしています。この命の多様性のことを「生物多様性」といいます。人は、この多様性のほんの一部にすぎませんが、まわりの生き物や自然環境に大きな影響を与えています。例えば、私達が特定の野生生物を捕獲しすぎたり、生息場所を破壊したりしてしまうと、その生物は数を減らしてしまいます。絶滅が危惧されるぐらい数が減少している生物のことを絶滅危惧種といいます。私達の研究室では、絶滅危惧種をはじめとして、様々な動植物の生態を明らかにし、保全につなげていくための研究を行っています。

図:ハナノキ(赤色)とシデコブシ(白色)。中部地方に分布する希少植物で、生育地である湿地が、開発によって減少しています。地域の方と協働で生態調査や保全活動を行っています。

図:ガムシ(左上)とタガメ(左下)。 水生昆虫の保全研究。水生昆虫は、農薬の使用などにより全国的に個体数が減少しています。筑波山系には水生昆虫の貴重な生息地が残されており、生息調査を行っています。

2.人が自然環境に与える影響

人が住み、まちをつくっていくとどのようなことが起こるのでしょうか? 人が集まるところには都市が生まれます。都市は便利ですみやすい場所ですが、ほかの生き物たちにとっては、必ずしも生きやすいところとは限りません。つくば市は、筑波山付近の連続した森林から、大学周辺の都市化の進んだ場所まで多様な環境が存在しています。そこで、いろいろな地点を対象に、動植物の生息状況について調べてみました。すると、開発の進んだ市街地と筑波山周辺の自然の豊かな場所では、出現種が大きく異なることがわかりました。これは、人間活動の影響に敏感で、開発の進んだ場所では生きられない種が存在することを意味します。さらに近年では、外来種の侵入や気候変動など、地球規模での環境問題も進行しています。他の生き物たちと共存していくためには、私達が生物多様性に与える影響を明らかにし、できるだけ自然環境に負荷をかけない地域づくりを考えていくことが大切です。

図:自動撮影カメラで記録したつくば市の哺乳類(上)と分布調査の結果(下)。都市域ほど野生動物の撮影頻度が低下し、タヌキやウサギの割合が増加していることがわかりました。
(岩澤ほか 2021 保全生態学研究 「 都市化が筑波山周辺域の中・大型哺乳類に与える影響」)

 

撮影動画(YouTube)もぜひご覧ください (=^・^=)
イノシシ(筑波山麓) 
テン(筑波山麓)
タヌキ(筑波大キャンパス) 

 

図:つくば市内での樹木の多様性の調査。都市林は身近な自然として大切ですが、周辺が開発され、面積が小さくなったものも多いです。

図:外来種マダラコウラナメクジ(左)と捕獲用トラップの設置の様子(右)。マダラコウラナメクジは茨城県で急激に分布拡大をしている大型ナメクジです。生態系への影響を調査しています。

図:世界遺産白神山地でのブナの更新調査。地球温暖化が進んでいますが、ブナの更新に何か変化はみられるでしょうか?

3.人と自然とのつながり

私達人間は、自然に様々な影響を与える一方で、自然からたくさんの恵みもいただいています。例えば、きれいな森の中を歩くと、すがすがしい気持ちになりますよね。人が自然や生き物に抱く感情には、様々なものがあります。好き、嫌い、大切、どうでもよいなど・・・。
私達が、自然の恵みを受けながら豊かな暮らしを続けていくには、自然について(少しでよいので)関心をもつ必要があります。私達の研究室では、そうした人と自然のつながりに関する研究も進めています。

図:茨城県桜川市の山桜景観(上)。当市では、山桜をシンボルとした地域づくりが進められています。地域の人々が山桜にどのような価値を感じているか、アンケート調査を実施しました(下)。すると、春の美しい風景だけではなく、歴史や文化など幅広い視点から山桜の価値が捉えられていることがわかりました。

 

図:トレイルランニング(森の中を走るスポーツ:右上)による植生への影響の調査。自然の中で行うスポーツは、オリエンテーリングやマウンテンバイクなど様々なものがあります。植生への負荷を十分に回復させながら、持続的に自然を利用する方法を研究しています。

図:シカによる採食から植生を守るための保護柵(丹沢大山国定公園)。こうした対策を進めていくには、国定公園を利用する人々の理解と協力が大切です。

生物多様性の研究室であるためか、学生の研究テーマは実に多様です・・・(笑)。しかしその中心にあるものは、人と自然とのつながりを見つめ、大切にしていくことです。

冒頭で紹介した湿地は、保護区ではない身近な自然です。所有者の方は、先祖代々、ここを大切に守られ、薪や、お正月の飾り物をつくるための植物などを採ってきました。貴重な生き物がいるから保護するだけではなく、生活や文化に欠かせない場所として残されてきた場所なのですね。私はこの湿地で毎年、希少植物の調査をさせていただいています。四季折々、美しい花々を見ることができ、とても幸せな気持ちになります。

図:湿地の植物。

学生のみなさんには、それぞれ、その人らしい研究テーマを見つけて、どんどんよい論文を書いてもらいたいです。でもその前に、まずは自然に見て触れて、楽しく充実した時を過ごしてほしいと願っています。興味をもたれた方は、ぜひ研究室に遊びにいらしてください。お待ちしています。

 

参考WEBサイト


担当:生物資源学類/生物資源科学学位プログラム/自然保護寄附講座

研究室ホームページ:筑波大学森林生態環境学研究室(育林学・自然保護学研究室)

個人ホームページ:ようこそRUBRA(ルブラ)へ

 

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佐伯いく代(Ikuyo SAEKI)