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個性豊かな研究室を紹介します。

地形学分野

小倉拓郎 助教 OGURA Takuro

地理情報システム(GIS)やドローンで小さな変化の積み重ねを読み解く

はじめに

私は2021年3月に博士課程を修了し、2021年5月より筑波大学に着任しました。私たちの研究室では、地形学・自然地理学をベースとして自然環境の微細な変化を観測し、日々変わりゆく環境変化の様子を分析しています。日常生活を営む上で毎日何気なく同じ場所を歩いていると、「木々が色づいてきたな」「今日も山が綺麗だな」など、風景を楽しむ機会はありませんか?私が研究対象としている河川では、石ころがゴロゴロたまっていたり、河原に生えている植物が夏になると草丈を伸ばしたりと、小さな変化の積み重ねが起こっているのですが、人々はなかなかそのことを認識する人は少ないところです。そこで、私は卒業論文の執筆時より、ドローン(無人航空機,UAV: Unmanned Aerial Vehicle)で撮影した写真を用いて測量を行い、地理情報システム(GIS: Geographic Information System)を用いて微細な地形変化を特定する研究を行っています。

研究テーマ1:河道内土砂のモニタリング

日本の河川では、人工構造物の設置によって河道内での土砂移動が制限されているため、河床の固定化や樹林化がみられ、生態系や災害リスク・流域住民の生業への影響などの問題を抱えています。滋賀県東近江市を流れる愛知川(えちがわ)流域でも同様の問題を抱えています。適切な河川管理を行うべく、2017年12月には、大型重機で人為的に河道をかきまわしてやわらかくする河床耕耘(かしょうこううん)を行い、2018年より継続して河道内土砂のモニタリングを実施しています(図1)。2021年8月には上流で大雨が降り、上流のダムから長い時間多量の放水がありました。その結果、下流の土砂も少しずつ動いています。定点観測を行う上で、どの程度の放水量があればどのくらいの大きさの河原の礫が動いているのかを、ドローンで取得した測量成果で捉えることができます。また、モニタリング開始時には見られなかった植物の種類も増えてきており、時系列変化を追う上で河床にどのような変化があったのかを調べています。この研究は、現地の研究者(滋賀県琵琶湖環境科学研究センター)や河川管理者(滋賀県流域政策局)との共同研究として実施しており、地形学における成果のみならず、生態学や河川工学などの研究者とのコラボレーションを通して、測量成果の応用を考えています。

 

図1 2021年7月~2021年9月に発生した愛知川の地形変化
重機でかきまわして河床耕耘(かしょうこううん)を行った後の土砂移動の特徴を調べています。
(滋賀県琵琶湖環境科学研究センター・滋賀県立琵琶湖博物館との共同研究)

研究テーマ2:三次元測量成果を用いた地球科学教育・アウトリーチへの応用

実は、私は大学入学時までもともと高校地理の教員を目指していました。大学院修士2年の頃、中学校と高校の社会科・地理歴史科の非常勤講師を行いながら研究を行っていた経験があり、中等教育での現場経験も少々積んでおります。その際に、「研究で使用しているドローンを用いた測量の成果を地理教育や地学教育に使えば、もっと地形に興味をもってもらえるのではないか?」という考えに至りました。そこで、博士課程在学時より地形学の研究と両立させながら、地球科学教育・アウトリーチの手法に関する研究も進めてきました。筑波大学に着任してから、ドローンで撮影した全天球パノラマ画像を用いた地形学習教材を作成しています(図2)。扇状地や河岸段丘など、中学校や高校で学習する典型的な地形を、スマートフォンの加速度センサーを用いて、360°見渡せることができる写真教材を作成しました。実際に公文国際学園高等部の地理の先生と協力して授業を実施したところ、直上から見下ろす空中写真や地形図よりも斜めの視点が入ることで高低差を感じやすいことがわかりました。
教材は順次整備中です。ぜひ皆さんも試してみてください。
リンク:https://gis-oer2.csis.u-tokyo.ac.jp/%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%83%9Bvr

 

図2 公文国際学園高等部2年生を対象とした授業実践

スマートフォンやタブレットを用いて視点を動かしながら地形の観察を行っている
(公文国際学園高等部との共同研究)

また、3Dプリンタを用いた地形模型の作成と教育実践についても本格的に取り組んでいます。山陰海岸ジオパークにある海食洞(海岸の岩石に空いている穴)の調査の成果を3Dプリンタで印刷し、地形模型を作成してみました(図3)(茨城大学・鳥取大学・山陰海岸ジオパークとの共同研究)。岩石の節理(割れ目)をはっきりと確認でき、節理の角度や穴の開き方などをアナログに観察することができます。これらの海食洞は船で移動しなければ見ることができない場所にあるため、船に乗れない人に対して地形の様子を見てもらう観光目的での利用や、ジオパークのガイドさんである船員さんに模型を渡し、地形学的な解説を行う際に援用してもらうという教育的な利用など、活用方法にはあらゆる可能性があると考えています。今後は、地形の変化前・変化後の模型を印刷し、地形の微細な変化を観察してもらう教材を作成しようと考えています。

図3 山陰海岸ジオパークのジオサイト「千貫松島,めがね洞門」の3Dプリント

ドローンで測量した成果を3Dプリンタで印刷しています。
(茨城大学・鳥取大学・山陰海岸ジオパークとの共同研究)

学生の研究テーマ

今年度は計4名を指導しています。学生たちは、主にGISを用いた地形解析を用いて課題を発見・解決しています。研究を遂行するためには、フィールドワークを通した地形測量、地質の観察や、文献調査、聞き取り調査など、手段は多岐にわたります(図4)。これも、地理学という学問がカバーする範囲の広さを物語っていると思います。また、研究対象地域の方との協力も不可欠です。田谷の洞窟保存実行委員会をはじめ、近隣に住んでいる方とのサイエンスコミュニケーションも欠かさず行っています。

これまでの指導学生のテーマ

・廃道を用いた山地斜面における土砂移動の評価-静岡県浜松市の事例-
・高密度点群解析を用いた横浜・田谷の洞窟における浅所崩落の評価
・荒川における内水氾濫頻発区域の分布と地形的特性
・新学習指導要領の地学・地理における地形学習の内容・構造の分析―校種間の連続性や空間スケールに着目して―
・土石流扇状地の三次元形状と土石流の流下・堆積範囲の関係―2014年広島豪雨土砂災害の事例―

 

図4 研究室の学生の研究活動の様子
フィールドワークと地理情報システム(GIS)を用いた地形解析を行っています。
地図に落とし込んで解析することで見えないものを可視化することができます。

おわりに

私は、基礎科学の側面を持つ地形学の研究をベースに、教育・アウトリーチの効果検証に関する研究も実施し、常に学問と社会のつながりを意識しながら研究を行っています。地域の環境や基礎的な科学の素養を有することで、日常生活を営む上での景観の捉え方が豊かになり、生活に潤いをもたらせることができると考えています。何気ない風景にも必ず小さな変化の積み重ねが存在していると思います。皆さんも、ぜひ少しだけでも気にかけながら日常生活を楽しんでみてください。

図5 研究室メンバーとの集合写真
皆のびのびと頑張っています。

 

参考Webサイト


個人ウェブサイト:https://www.geoguraphy.com/

Twitter:https://twitter.com/ge_ogura_phy

研究紹介の動画(日本地理学会地理学のアウトリーチ研究グループ):https://youtu.be/315_EyMUzlk

地形鮮明化プロジェクト:https://www.hdtopography.org/

田谷の洞窟保存実行委員会:https://www.tayacave.com/

スマホ地形VR:https://gis-oer2.csis.u-tokyo.ac.jp/%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%83%9Bvr

3Dモデル閲覧サイト(Sketchfab):https://sketchfab.com/geoguraphy

YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCmNsm2j1Tczj7vvm-VNc1_A

 


小倉 拓郎