研究室にようこそ!

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地球環境科学学位プログラム
人文地理学分野 

久保 倫子 助教 KUBO Tomoko

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国内での野外実習の様子

 

生命環境系の中で、最も文系色が濃いのが人文地理学だと思います。地理学は、自然環境と人文環境の両方を扱う総合学問ですが、その中でも人文環境に着目して研究するのが人文地理学です。私の研究は、この中でも都市地理学という分野に属するもので、都市の機能や構造について、人間活動の中でも特に「住まうこと」に着目して分析します。具体的には、都市の構造変化の実態とそのメカニズムを社会・経済・政治・住宅需給・居住選好などの相互関係として理解し、ローカル、ナショナル、グローバルなスケールで分析しています。その中で、人々が直面する生活上の問題、都市の居住環境上の課題、住まう場としての都市の在り方に対し、問題提起をしています。

第二次世界大戦後から1980年代頃までは、「郊外化」と呼ばれる現象が都市構造を説明するのに最も適していました。政策、投資、人々の居住選好など、あらゆるものが郊外を志向した時代で、郊外の中でも工業に特化した地区、居住に特化した地区、郊外の業務拠点となる地区などが生まれ、大都市圏(一般には通勤や買い物などの行動で都心と結びつく圏域を指します)における機能分化が高度に発達しました。郊外化に伴い、大都市圏はかつてないほど広域に成長していきました。当然、広域の大都市圏を支えるには、交通網や日常生活圏の整備が欠かせません。そのため、高速道路や鉄道、空港などの整備に、公的・民間の資金が投入されてきました。郊外住宅地の開発も進められ、公的主体が大規模ニュータウンや公団住宅を整備し、民間ディベロッパーも多種多様な住宅地を供給しました。郊外化の時代は、婚姻率の高い時代でもありましたので、結婚し、子どもをもち、郊外に庭付き一戸建てを購入することは「人々の憧れ」ともみなされたといわれています。

しかし、1990年頃から日本の都市はグローバルな都市間競争にさらされるようになりました。バブル経済が崩壊し、経済が疲弊していた日本では、グローバル・シティである東京の競争力を高めること、そして大都市圏の都心部に都市機能、投資、人口を再集中させることが重視されるようになります。当然、国内都市間の競争も激化し、多くの地方都市は、既存の産業や観光資源に加え、地域に眠っていた歴史・伝統、食文化、人々の繋がり(社会関係資本)の豊かさなどを掘り起こし、地域の新たな産業、観光資源として売り出すようになっていきました。

2000年代の東京では、人口および投資の集中が進み、「都心回帰」と呼ばれる現象が進行しました。オリンピック・パラリンピック大会の開催に向け、東京都心を中心に交通網の再整備や都市開発が進められ、タワーマンションの供給も増加しました。既存の法制度ではタワーマンションのような超高層建築物を地盤の緩い東京湾岸部などに建設することはできませんでした。2002年の都市再生特別措置法をはじめとする、都心再開発を促す金融、都市計画、建築基準上の規制緩和策があってこそ、このような都心再開発が可能になったと言えます。

都心再開発を説明する他のモデルには、「地代格差」に着目したジェントリフィケーションがあります。これは、都市開発から時間が経過するにつれ、都心の中に本来の地価よりもかなり安価な場所が出現することに着目します。最も地価の高い都心には、百貨店や大企業のオフィス、金融機関や劇場などの高い地代を支払うことのできる業種が集積します。しかし、交通利便性が高い都心に立地するのが最適でも高い地代を支払えない業種(例えば、卸売業や軽工業、軽工業に重視する労働者向けの安価な住宅など)は、都心に近接した地価の割安な地域に立地してきました。バージェスが20世紀初頭に発表した都市の同心円構造モデルやホイトの扇形モデルは、こうした都市内部の業種の分布とそれらの成長・拡大にともなう都市内部の変化を基盤にしていました。こうした割安な地域において、再投資を行って高級マンションや百貨店に建て替えることで、ディベロッパーや投資家は利益を最大化することが見込めるわけです。結果として、卸売業や安価な住宅が、高級マンションに建て替えられることとなります。こうした居住者の社会経済的階層や土地利用の上方変化を、ジェントリフィケーションと呼びます。ジェントリフィケーションは、資本主義下の都市では時間経過に伴って自然に生じざるを得ないメカニズムです。しかし、この現象の裏では、多くの低所得者層が立退きを迫られたり、直接的に立ち退きを求められないとしても近隣が高級地区に変わっていくことで生活費が上がり、転居を余儀なくされたりという、「居住権の侵害」といった問題が起きています。

本来、都市とは巨大な集落です。つまり、人々が住まい、生きていく場所です。私たちが適切な住居を得て、居住の権利を侵害されないことは、基本的人権の一部であるし、国際条約でも国連ハビタットなどを通じて保証されています。それにもかかわらず、先進国の都市でも多くの居住問題が起こっています。発展途上にある国も、過去に例をみないスピードで都市化が進行し、都市居住人口の割合が高まるとともに、都市人口が爆発的に成長しています。メガシティと呼ばれる人口1000万超の都市は、アジア・アフリカ・中南米などで急速に増加しています。現代の都市を、適切な居住の場として発展させていくために、都市とは何か、都市に求められるものは何か、どのような観点を持てば居住の場としての都市環境を維持できるのか、こういった長期的な視点をもって議論するのが都市地理学の役割であり、私の研究の最も根本をなす課題です。

皆さんにとって、最も身近な場である「都市」を新たな視点で見つめ、より持続的な居住の場として発展させていくための研究に取り組んでみませんか。私の研究室では、日本の都市(東京大都市圏や名古屋大都市圏)の他、北米およびアジアの都市の研究に取り組んでいます。関心を持たれた方は、遠慮なく研究室を訪ねてください。

 

     

フルブライト奨学生として滞在した米国での景観写真(シカゴ・デンバー)

 

主な業績


令和3年度文部科学大臣表彰 若手科学者賞 受賞「現代都市空間の構造変容と居住問題解決に向けた地理学的研究))・令和3年度筑波大学若手教員奨励賞 受賞

Kubo, T. (2020) “Divided Tokyo:Disparities in Living Conditions in the City Center and the Shrinking Suburbs (International Perspectives in Geography: AJG Library 11).” Springer.

Kubo, T., & Yui, Y. eds. (2019) “The Rise in Vacant Hosuing in Post-Growth Japan: Housing Market, Urban Policy, and Revitalizing Aging Cities.” Springer.

由井義通・久保倫子・西山弘泰 編 (2016)『都市の空き家問題なぜ?どうする?-地域に即した問題解決に向けて―』古今書院

久保倫子 (2015)『東京大都市圏におけるハウジング研究 都心居住と郊外の衰退』古今書院 (2016年度地理空間学会『学術賞』受賞

 

参考WEBサイト


筑波大学人文地理学分野

 

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久保 倫子