研究室にようこそ!

個性豊かな研究室を紹介します。

農産食品加工研究室
(北村・粉川研)

粉川 美踏 助教 KOKAWA Mito

研究室にようこそ!〜食品の美味しさを定量化し、新しい美味しさを作り出す〜

私たちの研究室では、食品や農産物を対象として、新しい計測方法や加工方法を開発しています。扱う食べ物は、米・果物・野菜などの農産物、肉や魚、チーズ・麺・パンなど幅広く、「自分はマグロの刺身が本当に大好きなので、刺身の美味しさに関する研究をしたいです」なんて学生さんもいます。私自身も小さい頃から食いしん坊で、中高生の頃はお小遣いが入ったら料理の本を買っていました。そんな人たちが集まった、にぎやかな研究室です(図1-1、1-2、1-3)。

図1-1,1-2  年度始めには、研究室全員で筑波山に登ります。この年は小雨が降っていて、山頂も霧の中でした。

図1-3 卒業式の後の集合写真。現在の学生数は32人です

美味しさの定量化:食品の計測方法の開発

最近はスーパーでも「糖度13度の甘いスイカ!」などというポップアップを見るようになりました。スイカを全く傷つけずに、内部の糖度をどうやって測ったのだろう?と疑問に思ったことはないですか?
実はこのような果実の糖度計測には、近赤外光という光を使っています。甘さの元である糖類は近赤外光の一部を吸収します。そこで、スイカに近赤外光を当てて、スイカを通って出てきた光(透過光)の強さを調べれば、糖の量を間接的に調べることができます。糖がたくさんあるスイカでは、光がたくさん吸収されるため、透過光の強さが下がるのです。
このように、計測対象の食品を全く傷つけずに、何らかの計測をする方法を「非破壊」計測と呼んでいます。
果実の糖度を調べる技術はすでに実用化されていますが、私の研究室では同じような原理を使い、果物や野菜のポリフェノールの量、アボカドの食べごろ、肉やチーズの熟成度合い、リンゴや梨の硬さなどを、非破壊で計測する技術を開発しています。他にもマンゴーの産地判別、豆乳の加熱度、肉表面の菌数を簡易的に調べる方法を研究してきました。
このような計測をするための装置を作るところから(図2)、計測の方法を工夫したり、データの解析に使う数式を選択したり、など多くの段階を経て新しい計測手法ができあがります。

図2 レーザー光をチーズに当て、光の広がり方を観察することで、チーズの熟成度合いを調べることができます。右側にある白い直方体がカメラ

糖度の計測の原理は単純のように思われますが、実際はいろいろと難しさもあります。果物には糖度以外の個体差(大きさ、表面の色、皮の厚さなど)がありますよね。このような個体差は、近赤外光の吸収に影響を及ぼしてしまいます。いろいろな要素に影響を受けた近赤外光のデータから、どうやって糖類の情報だけを抜き出すか?という解析の面での工夫が研究の大切なポイントです。このように、自分たちが知りたい情報は何なのか、それは食品の化学成分や微細構造とどういう関係があるのか、そして光は食品とどのように相互作用するのか、といったことを考えながら研究をします(図3)。

図3

食品の品質を調べる仕事は、多くの場合、「職人技」と呼ばれる長年の経験に基づく感覚や勘などに頼っています。非破壊の計測は、こういった職人技を機械で置き換えようとするものなのか、とも言われますが、そういうつもりは全くありません。むしろ、職人の判断を機械で再現しようとした時に、どういう成分の変化や構造の変化を測れば良いのか?ということを客観的に調べることで、職人技のすごさがわかることも多いのです。
計測手法を開発するということは、その食品の品質を決めている要素は何なのかを丁寧に調べることであり、その食品のことをより深く理解する助けにもなります。

新しい美味しさを作る:食品の加工

日本はとても食べ物が美味しい国です。私は小学校高学年まで父の仕事で海外に住んでいたので、日本食は憧れの対象でした。夏休みは毎年日本で過ごしていたのですが、コンビニに連れて行ってもらい、好きなお菓子を一つ買ってもらえるのが本当に嬉しかったのを覚えています。
そんな国では新しい加工方法なんて必要ないのではと思われるかもしれません。でも良く考えてみると、そんな日本でも米の消費量低下や食品ロス、畜産が環境にあたえる負荷などの課題があります。また、世界に目を向けると、輸入穀物に頼り自国の作物をうまく活用できていない国があったり、生活習慣病などの健康問題が深刻になってきたり、と多くの問題があります。こういった問題に取り組むための一つの手段が、新しい食品加工技術の開発です。
私たちの研究室では、植物性タンパク質から作る新しい「肉」や米の新しい加工方法を使った米パンや麺の開発(図4)、食品残渣を再利用するための粉砕・乾燥技術などに取り組んでいます。

図4 玄米から作ったパンと米麺。実験者は必ず試食もします。私もたまに呼ばれます。

さらに最近はスパイスの香りの放出を自由に制御できるペーストの開発や、コーヒー豆に豊かで複雑な香りをつけるための発酵技術の開発なども行なっています。香りは食品の美味しさを大きく左右する要素で、香り成分の量だけでなく、どういう構造に閉じ込められているか、最終的に食品を食べるときの状態など、さまざまな点を考える必要があり、とても面白い研究テーマです。
一例を挙げると、香り成分を油に溶かし、その油を水の中に分散させたマヨネーズのようなものを作ると、香りが逃げにくいことが知られています。この「香りマヨネーズ」を加熱すると、油と水が一気に分かれ、閉じ込められていた香りがフワッと出てきます。このような技術を応用すれば、冷凍食品やお弁当をレンジ加熱した時に豊かな香りが楽しめるようになりそうです。
食品・食料に関わる研究には、さまざまなものがあり、筑波大の中にも食品に関わる研究室がたくさんあります。例えば、「身体に良い」とされている果物から鍵となる成分を取り出して構造を調べるような研究、有用な微生物を見つけてどういう性質を持っているのかを調べる研究、人が新しい食品にどう反応するのかという社会学的研究など…。
その中でも私たちがとる「工学的」なアプローチは、なるべく食品を丸のまま扱うという特徴があります。特定の成分や食品の一部分に集中しすぎるのではなく、さまざまな面をもつ複雑なものとして食品を扱っています。
実験室の冷蔵庫には、チーズ、バター、りんご、梨、ワイン、ビールが入っていますし、保管庫には米、パン、麺、コーヒー、各種スパイスがあって、しばらく暮らせそう(笑)。そういう食素材と試験管やビーカー、さらにレーザー光とカメラが混在したカオスな実験室ですが、興味があったらぜひ覗いてみてください。

 

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粉川 美踏