研究室にようこそ!

個性豊かな研究室を紹介します。

神経生理学研究室

堀江 健生 助教 HORIE Takeo

~下田臨海実験センター 神経生理学研究室~

 

研究室紹介

私たちの研究室では、脊索動物で最も単純な神経系を持つホヤの幼生をモデルとして、脳・神経系や感覚器の発生とその生理機能について、単一細胞レベル、遺伝子レベルで理解することを目指して研究を進めています。また、ホヤの研究から明らかにした脳・神経系の発生・分化機構について、様々な動物を用いて比較研究を行うことにより、脳・神経系を作り出す分子機構の普遍性や多様性を明らかにすることを目指した研究も行っています。2021年度は私と学振研究員1名、大学院1名、学部生2名、技術補佐員/事務補佐員2名の合計7名の体制で研究に励んでいます(図1)。

図1. 2021年度の研究室のメンバー

ホヤをモデルとして脳・神経系を研究する理由

ホヤは脊椎動物と同じ脊索動物門に属しており、脊椎動物に最も近縁な海産の無脊椎動物です。変態後のホヤの成体は脊椎動物に似ているとは思えませんが、変態前のホヤの幼生はカエルのオタマジャクシのような形をしています(図2)。外見だけでなく、脳・神経系も背側に神経管が位置するなど脊椎動物と共通の体制を備えています。このホヤ幼生の神経系はわずか231個(中枢神経系は177個、末梢神経系は54個)と少数の細胞から構成されています(図3)。神経系の形態や機能、発生メカニズムなどが脊椎動物に似ているにも関わらず、少数の細胞から構成されるシンプルなホヤ幼生の脳・神経系の研究成果は、脊椎動物の複雑な神経系の理解に直接つながると期待されます。

図2. ホヤの成体と幼生

図3. 神経系を蛍光タンパク質によって可視化されたホヤの幼生。緑色が神経系の細胞で、マゼンタが核を示している。

主な研究手法

色々な方法を試してみようという方針の下で、発生生物学、神経生理学、光遺伝学、ゲノム生物学、情報生物学など様々な手法を取り入れて研究を行っています。特に最近は、単一細胞トランスクリプトーム解析という手法を取り入れた研究を展開しています。単一細胞トランスクリプトームは細胞一つ一つについて遺伝子発現を網羅的に調べる手法です。私たちはこの最新の技術を用いて、ホヤの中枢神経系を構成する全ての細胞一つ一つの遺伝子発現プロファイルを作成し、その研究データを基盤として、様々な手法を用いて脳・神経系の発生や生理機能に関する研究を行っています。

研究テーマ

1) 行動を生み出す神経回路の動作原理の単一細胞レベルでの解明

ホヤは重力や光、接触刺激などの外部環境に応答して行動を変化させることが知られています。私たちはこれらの外部環境に応答し、行動を生み出す神経回路について、回路を構成する一つ一つの神経細胞を同定し、その生理機能を解明することで、神経回路がどのように働き、行動を生み出すのかについて研究をしています。具体的な手法としては、神経活動を活性化もしくは抑制化する光遺伝学的な手法や神経活動のライブイメージの手法を駆使して研究を行っています。これまでにホヤ幼生の遊泳運動に必須の役割をする神経細胞の同定に成功しています。

2) 神経細胞の発生・分化機構および遺伝子発現調節機構の解明

ホヤは受精卵から幼生に至るまでの細胞系譜が完全に明らかにされており、胚発生過程においてどの割球から脳のどの領域が発生するのか、すなわち、脳の細胞系譜が明らかにされています。つまり、ホヤを用いれば、「胚発生過程において脳がどのように作られるのか?」という問いに対し、細胞系譜に基づいて真に1細胞レベルで解明することが可能であると期待されます。これまでの研究により、私たちはホヤの胚発生過程を通した単一細胞トランスクリプトームのデータを有しており、この情報をもとに、前駆細胞から神経細胞の最終分化に至るまでの遺伝子発現の変化を知ることが出来ます。私たちは、このデータをもとにして、ホヤ幼生の中枢神経系を構成する全ての神経細胞について、遺伝子発現解析と転写因子・シグナル分子の徹底的な機能解析を行うことにより、前駆細胞から最終分化にいたるまでの神経細胞の発生・分化機構を真に一細胞レベルで解明する研究を行っています。さらに、各神経細胞おける遺伝子発現調節機構に関する研究も展開しており、各神経細胞が特異的な機能を獲得するための遺伝子発現調節機構や各神経細胞における時空間的な遺伝子発現制御機構を解明することを目指しています。

3)脳・神経系の普遍性と多様性を生み出す進化機構の研究

脳・神経系は進化の過程で最も複雑の変化した器官の一つです。進化の過程で脳・神経系がどのように変化してきたのかを解明することは、生物の進化を理解するうえで重要であると考えられています。上記を解明するためには、一つのモデル生物だけでなく多種の動物を使った解析が必要であると考えられます。ホヤだけでなく、線虫、ショウジョウバエ、メダカ、ゼブラフィッシュ、マウスと比較することで、脳・神経系の発生プログラムがどのように進化してきたのかを明らかにし、脳・神経系が作られる仕組みの共通原理やその複雑化の仕組みを明らかにしていきたいと考えています。

研究室のモットー

「研究を楽しむこと」を第一のモットーにしています。研究は大変なことや辛いことも多くありますが、あまり悲観的にならずに研究を楽しむことで良いアイデアが生まれると思っています。私の過去のメンターの先生方は例外なく研究が好きで、皆さん研究を楽しんでおられました。私もラボメンバーが研究を楽しいと思える環境作りをするとともに、私自身が一番研究を楽しんでいます。海に囲まれた自然豊かな環境の下田臨海実験センターで皆さんも楽しくエキサイティングな研究を体験してみませんか。

 

 

研究室ウェブサイト


神経生理学研究室(Horie Lab)

研究者総覧 TRIOS


堀江健生