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森林生態環境学研究室

上條 隆志 教授 KAMIJO Takashi

~島の生態系を保全し、教育に活用する~

私が研究対象としている 伊豆諸島は 、 相模湾南方海上に位置する火山島であり、固有あるいは準固有の生物が多数生育 しています 。島々には火山活動によって、様々な遷移段階の植物群落が存在する一方で、長時間噴火の影響を受けていない極相林も残されてい ます 。 このような伊豆諸島対象として、 私は 研究活動だけでなく、自然保護活動と自然や環境保全に関する教育・普及活動をしています。 今回、これらの活動について、
簡単に紹介したいと思います。
まず、 自然保護活動と自教育・普及活動 をする上での、伊豆諸島の特徴と重要性を以下に示します。

(1) 生物多様性保全上の重要性:昆虫ではミクラミヤマクワガタ、植物ではオオキリシマエビネのような固有かつ絶滅の危機に瀕している動植物がいます。 その一方で、キョン、ノネコ、ニホンイタチによる深刻な外来種問題も存在します。
保全のためには、研究者や行政だけでなく、地元の自然保護の担い手を支援し、育成することが必要不可欠です。

(2) 生物進化を学ぶ場としての重要性: 多数の島々からなり、 島の 生物には、島間、島と本州間での遺伝的な相違だけでなく、生態学的な相違があ ります。このような相違については 多くの研究例があるとともに、“観察し易い”という利点があります。たとえば、シマホタルブクロは、路傍に生育する植物ですが、花の大きさが本土より明らかに小さく、島間でも大きさが異なります。この相違は、訪花昆虫の相違と関係があることが報告されています。すなわち、島々を訪れ 、自然を観察する ことで、 島の 生物と生物進化の関係を 考える ことができます。

(3) 火山と植生遷移を学ぶ場としての重要性: 火山噴火と噴火後の年代に基づいて自然を観察することによって、長期にわたる植生遷移を観察することができます。三宅島や大島では、植生遷移を テーマにした自然 ガイドの講習会 、高校の生物教員向けの 研修 会、博物館の展示作成、高校生向けの教育番組の作成に大いに活用することができています。

(4) 生活や文化の 島間 比較 の重要性 自然だけでなく、 人々の生活や文化にも 島ごとに 特色があり ます。例えば、漁業が盛んな島がある一方で、急崖に囲まれる御蔵島は漁業には適していません。しかし、高級材であるツゲが自生するため、ツゲの原木生産が重要な産業 となっていました 。 なお、現在の御蔵島はミナミハンドウイルカを対象としたドルフィンスイムが盛んな島となっています。

このような伊豆諸島において私が参画している教育・普及活動 の中で、 特色がある と思われる点について 述べたい と思います。

一つ目に挙げるのは、基礎資料の作成です。東京農工大学の植生管理学研究室と協力して、各島の植生誌の作成や伊豆諸島全体の植生誌の作成をしています。普及活動に繋がるよう、これらを島の人たちに積極的に配布しています。

二つ目に挙げるのは、自然保護の担い手に関する 島間交流です。伊豆諸島は良港に恵まれない島が多く、実は島間の移動は容易ではありません。島でのシンポジウムではできるだけ、他の島の人を呼んで話を して頂いています。 他の島の 話を聞くこと は 、自分の島の特色を知る一番の機会になると考えています。

三つ目 に挙げるのは、 何度も訪れることです。離島の便は決してよくありません。青ヶ島や御蔵島に行くためには、船だけでは確実性が低く、 9 人乗りのヘリコプターを事前に予約しなければならないことも多いです。島の人と信頼関係を築く上で最も重要なことは“そこに行くこと”と考えています。

最後に今後の展望と課題について述べたいと思います。 三宅島や大島は植生遷移をダイレクトに学ぶことができます。自然の教材として、 よりよい形で活用で きる教育コンテンツ を 行政や教育関係者と共に 作りたいと考えています 。 島の自然や文化を深く理解するためには、自然ガイドが必要となります。 御蔵島には自然ガイド、大島にはジオガイドの制度がありますが、導入されていない島も多く、その育成が必要とされています。 このように、 自然保護や環境教育に関する進展がある一方で、依然として、外来種問題、希少動植物の盗掘問題、開発問題などがあります。簡単には解決することはありませんが、 多くの人々と協力して問題解決に取り組みたいと考えています。

 

ミクラミヤマクワガタ(御蔵島)

 

ホタルブクロとシマホタルブクロ(大島と三宅島)の比較

三宅島の溶岩上の遷移

 

伊豆諸島の植生ガイド

(2018年11月に生命環境科学研究科WEBにて紹介したものを再掲しました)

 

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