卒業生の声

社会で活躍されている卒業生・修了生の活動を紹介します。

No.39 神田 芙美佳 KANDA Fumika
片倉コープアグリ株式会社
肥料本部 技術普及部
(JA全農出向)


生物資源科学専攻

経歴

2006年 筑波大学第二学群生物資源学類 入学
2012年 筑波大学大学院生命環境科学研究科生物資源科学専攻修了 修士(農学)
2012年 全国農業協同組合連合会(JA全農)入会
営農・技術センター 肥料研究室配属
2021年 現職

筑波大学を志望したきっかけ

 幼少期は山々に囲まれた土地で育ちました。新潟県小千谷市というところです。「小」さな「千」の「谷」と書くだけあって、実家の前方にも後方にも道路を進んだ先にも山がありました。かと言って山々で遊ぶことはあまり無く、専ら囲まれて育ったというだけです。ですが高校3年生、進路を選ぶ過程で自分は何がしたいのか、何に興味があるのか自問自答すると、環境保全が思い浮かびました。当時の私は、存在して当たり前の自然が破壊されることは阻止しなくてはならない、という根拠のない使命感を持っていました。高校3年生の夏休みにひとりでいくつかの大学を回り、筑波大学のキャンパスを歩いたとき、ここなら都会過ぎないし一人暮らしができそうだと思い、第二学群生物資源学類の推薦入試を受けました。面接では「なぜ環境保全に興味があるのか」問われましたが、「根拠の無い使命感」によるものだったので、うまく答えられなかったことを鮮明に覚えています。

モンゴルで穴を掘る

 大学時代はサークル活動に打ち込みながら、環境や農業を中心に学びました。大学3年生の研究室を選択する時期には、周囲の友人が自身の興味関心を明確に持って研究室を決めていくことに焦りつつ、「モンゴルで穴を掘る」という教授のプレゼン内容に惹かれ、土壌環境化学研究室を選びました。普段のコンクリート上の生活からは土壌のイメージが沸かず、「土壌って地層ではないの?」と思っていました(土壌学専門の方々に知られたら怒られます)。研究室を選んだ動機は若干不純でしたが、土壌学の授業や研究テーマを進める中で、土壌生成や土壌分類、土壌劣化を学び、卒業研究ではモンゴル東部に分布する草原の土壌分類についてまとめました。一般的な海外旅行の選択肢としてはマイナーなモンゴルですが、ほぼ手つかずの大草原、雲一つない青空の下で1mの深さの穴を掘り、その穴の中で土壌断面調査を行う。帰国後は土壌理化学性の分析結果から土壌分類を当てはめていく。初めての経験ばかりなのでひとつひとつ文献で調べ、教授や諸先輩方の指導を仰ぎながら行い、実験の失敗もたくさんしましたが、現在の仕事の基礎になったと思っています。

肥料の仕事

 就職活動では、どんな分野で自分の経験を活かせるか=やりがいと関心を持って働き続けられるか、ということを重視し、土壌と切っても切れない関係にある「肥料」などの生産資材や農産物の流通を担う全国農業協同組合連合会(JA全農)に就職しました。
 最初に配属された肥料研究室では、国内外肥料原料の評価や施肥技術、土壌診断に基づく適正施肥に関する仕事を担いました。大学で学んだことは土壌肥料学における氷山の一角で、一から学ばなくてはならない事ばかりでした。農業関連の仕事に就くのであれば大学時代にもっと農業の勉強を沢山しておけばよかったと後悔もしましたが、大学生の私は将来のことを具体的に考えられていなかったので、それは仕方のないこととと、折り合いをつけて今でも勉強し続けています。
 現在は肥料メーカーへ出向し、社内外の研修対応や広告宣伝活動、各種記事執筆など幅広く製品技術の普及を行っています。普及にあたっては肥料成分によって作物の収量がどれだけ増えるのか、ということだけでなく、施肥作業の省力軽労化や減肥など、農業経営にとって必要な視点を持つことに留意しています。
 肥料は農業生産に欠かせない資材ですがその多くを輸入に頼っており、2022年時点では中国の輸出規制やロシアのウクライナ侵攻等による世界的な原料価格の高騰にある状況です。また、2021年に農林水産省から公表されたみどりの食料システム戦略(出典:農林水産省Webサイト)では有機農業の拡大や化学肥料の使用量低減などが掲げられ、肥料を取り巻く情勢は目まぐるしく変化しています。このような状況の変化をいち早く察知し、農業者の皆さんが抱える悩みや課題を時代に即した製品や技術でともに解決していきたいと考えています。

 

写真左:田植の実演を社外向けにオンライン配信      写真右:田植機研修の様子

私生活のお話を少々

 現在、夫が単身赴任をしているため、二人の子供を抱えてワンオペ生活を送っています。
職場の育児短時間勤務制度を活用し、限られた時間内で業務を効率的に行うことを心掛け、通勤・業務時間外は100%子供との時間に費やしています。夫の単身赴任生活が始まる際、私が仕事を辞めて家族帯同で引っ越す選択肢もありましたが、続けたい気持ちもあったので、とりあえずワンオベ生活を始め、難しければ辞めれば良い、と思っていました。この生活を始めて1年が経過し、食事さえすれば掃除はしなくても死なない、お風呂は一日くらい入らなくても良い、何事もできる範囲でやれば良い、と思ってきました。制度が充実した職場に恵まれたこともあり、あと4年、続けられると思っています。
 社会人になりたての頃は毎日夜遅くまで残業していたこともありましたが、10年が経過し、全く異なるライフスタイルとなりました。

学生の皆さんへ

 私は常に目の前の物事に精一杯で、留学など何か特別な経験があるわけでも無く、周囲の高い志や経験値に劣等感を抱くことも多くあります。ですが、自分のやってみたい、行ってみたい、住んでみたいなどの直感に従ってきて、現在は忙しいながらも充実した日々を送っています。
 学生の皆さんにはこの先長い人生で様々なライフステージが待っていると思います。専業主婦という選択肢も含め、皆さんの持つ能力を発揮し続けられる環境を見つけてください。

 

(2023年3月)