卒業生の声

社会で活躍されている卒業生・修了生の活動を紹介します。

No.37 武田 真梨子 TAKEDA Mariko
株式会社ロフトワーク / FabCafe Tokyo
クリエイティブディレクター

環境科学専攻

経歴

2012 筑波大学 大学院 生命環境科学研究科 環境科学専攻 修了
2012 埼玉県立 八潮南高等学校 理科教諭
2013年 国立研究開発法人 国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター
2014年 日本科学未来館 事業部
2008  株式会社ロフトワーク, FabCafe Tokyo

『自然』への見方を変えてくれた生物学

生命科学の道に進むことになった背景には、身近な生き物たちを遊び相手にしていた子ども時代の原風景があったと思います。高校に進学し、生物の授業でマメ科植物の根っこに生息し植物と共生する『根粒菌』を知ったとき、それまであたり前のように見えていた生き物たちの目に見えないところで繰り広げられているミクロなシステムに衝撃を受け、生物学に興味を持ちました。漠然とでしたが、将来は自然環境に携わる仕事がしたいと考えていたこともあり、大学へ進学するにあたって生命の成り立ちやそこにある仕組みについて学べる、生命科学の道に進みました。

視野が広がるなかで変化した考え

生命環境科学研究科では、地球環境、自然環境、社会環境などを幅広い視点でとらえるための専門科目があり、ミクロな視点からマクロな視点まで、人と自然環境がどのように在るべきかを考えるための授業を受けることができました。学部時代は、遺伝子工学を扱う実験系の研究室に所属をしていましたが、大学院で広い分野の授業を受けるなかで、人の営みと自然環境の関係のなかにあるしくみを紐解きたいと思うようになり、文化人類学の視点から環境を学ぶ文化生態人類学研究室にて研究を行いました。この大学院での日々のなかで自然環境を維持しながら営みを続けるアプローチとして、科学技術の推進だけでなく、人の意識や行動へのアプローチも大切であると考えるようになりました。

対話を通して考えさせらたこと

大学院修了後は、教員免許を活かして公立高校で理科教諭となりました。社会人1年目ということもあり、初めは手探りで毎日必死に教員生活を送っていましたが、文化祭が過ぎる頃、徐々に生活にも慣れ、教えることの楽しさや、日々学びのなかで成長していく生徒たちの姿にやりがいを感じるようになりました。そして1年目が終わる頃、自分は未知の領域に取り組む研究の現場感を求めていることに気づき、社会人2年目は国立環境研究所の生物生態系環境研究センターで研究スタッフとして働くことにしました。

研究室では、外来生物の防除や農薬の毒性評価などの研究をしており、指標となる昆虫の飼育や同定をする日々を楽しく過ごしていました。国立環境研究所は、夏にオープンラボのようなイベントを実施します。一般の方に研究所に来ていただいて研究内容や取り組みの兆しについて紹介する機会があるのですが、そこで来場者の方に外来生物の防除の現場の話や、農薬が昆虫たちにどのような影響を及ぼすのかについてなど説明を行いました。その際、研究者と一般の方たちが対話する機会がほとんどないことに改めて気が付きました。研究の現状をお伝えすることで、一般の方々からいただくご意見や、会話を通して得られる気づきにとても考えさせられました。

科学と人をつなぐ科学コミュニケーターに

その頃、研究所内で科学技術振興機構のポスターを見つけました。それは、一般の高校生と研究者が一緒にワークショップのツアーに出かけるというような内容のものでした。そのポスターを見て、一般の人たちと研究者が点の対話だけでなく、一緒にリサーチしたり、話し合ったりできる機会があることを知りました。私も、そのような立場で何か仕事ができないかと思い、科学技術振興機構の採用情報ページを見ると、日本科学未来館の科学コミュニケーター職の募集が掲載されていました。思い切って試験を受けると、ありがたいことに採用していただけることに。

それまで私は、科学コミュニケーターという職を知らず、研修を通して、科学コミュニケーションの成り立ちや歴史などを学びました。科学技術は日進月歩で発展していくものですが、研究者やアカデミックな領域だけで開発が進んでいくと社会との乖離が生まれてしまうことがあります。そこで、科学技術を専門にする人と、一般社会の人が対話する機会をつくろうと日本で設置されたのが、日本科学未来館です。同館で科学コミュニケーター育成のための研修を受けながら、多様なステークホルダーの人たちと科学技術を考えるための活動を行いました。館内での対話活動、実験教室やイベントの企画運営だけでなく、研究者との実装実験の場づくりやシンポジウムでのファシリテーション、メディアと連携した発信活動など、幅広い活動に取り組ませていただきました。

プロジェクトを通して広がる可能性

未来館での活動が4年目を過ぎた頃、研究室、企業、クリエイターがプロジェクト単位で一つの活動体として新しい場づくりに挑戦している事例を見つけました。いったいどんな組織が運営しているんだろう?と思いさらに探っていくと、ある企業に辿り着きました。それが今所属しているロフトワークです。ロフトワークは、多様なステークホルダーや常に変化する環境に適応しながら、プロジェクトをゴールに導くためのプロジェクトマネジメントを軸にしています。クリエイターやアーティストといった、未来の可能性をかたちにする力を持った人たちと一緒に、プロジェクトを通して新しい価値を生み出している会社です。

「対話」や「社会実装」の可能性がプロジェクトを通してもっと広がるかもしれない!と感じた私は、今までのスキルにまったくなかったディレクター職ではありましたが、チャレンジすることにしました。最初は下積みのような感じで、とにかくディレクターとして働く上での最低限必要なスキルを身に付けていきながら、年間十数プロジェクトに関わらせてもらい、これまでに様々な企業や教育機関、行政や地域の人たちと一緒に様々な「もの・こと」をつくってきました。なかでも、つくば市と共に立ち上げた『つくばSTEAMコンパス』では、研究者と教育機関が一体となって、新しい学校教育の在り方に向けたチャレンジをしています。また私自身、仕事以外の場所でも、自分がミッションと感じている『科学コミュニケーション』の場づくりを、これまでのキャリアを活かして実践していきたいと考えています。

学生の皆さんへ

学生時代、今自分がこのような仕事についていることを全く想像しておらず、いろいろな道を経て、自分らしく活動できる今の仕事に出会うことができました。自分の感情が動く方へ一歩を踏み出すと、思いもよらなかった景色が広がっていることがあります。いろいろな世界を見て、面白そうと感じたことに積極的に入り込んでいけば、その分、可能性はどんどん広がっていくと思います。生命環境科学研究科を卒業した先輩たちも、世の中の様々な領域の第一線で活躍されています。そうした先輩たちの背中を見ながら、自分の可能性を信じて大いに活躍してください。いつかどこかでみなさんとご一緒できることを楽しみに、私も前に進みたいと思います。

つくばSTEAMコンパスのプロジェクトメンバーと 

(2022年11月)