卒業生の声

社会で活躍されている卒業生・修了生の活動を紹介します。

No.34 河野 裕之 KAWANO Hiroyuki
農林水産省 食料産業局知的財産課 種苗室
国際品種保護班海外情報係


生物資源科学専攻

経歴

2010年 筑波大学生命環境学群生物学類 入学
2016年 筑波大学大学院生命環境科学研究科生物資源科学専攻修了 修士(農学)
2016年 農林水産省入省(一般職・農学)、北海道農政事務所配属
2018年 現職

 

筑波大学を卒業して5年が経とうとしている今も、ふと在学中の出来事を思い出したり、つくばを訪ねた機会に、緑豊かで広々したキャンパスが懐かしくなり歩いてみたりすることがあります。広いキャンパスですが、そのあちこちに、あの時ここでこんなことがあったなあという記憶に溢れていますし、筑波大での出会いや経験のおかげで今の私があります。今回、卒業生の声の執筆の機会をいただいたので、ほかの先輩方に比べて卒業後の経験が浅いところですが、私なりに筑波大で経験できたことをお伝えできればと思います。

生物学類に入って

私が入学した生物学類では、講義・実習で同じクラスの同級生と一緒になることが多く、そこで大学初めての友人たちができました。生物学類には、一般入試のほかにも、推薦入試や国際科学オリンピック特別入試など、様々な入り口があったためか、本当に個性豊かな同級生が集まっていました。研究したいことが既に明確な人も多く、菌類がとにかく好きだという人、寄生蜂の生態を研究したいという人、また、1年次から研究室に通い始める人もいて、生物学への情熱に溢れた同級生に圧倒されました。集まる学生の幅の広さが、筑波大の魅力の一つだと思います。植物や分子生物学に興味があって生物学類に入ったものの、専門にしたい分野が漠然としていた私は焦りました…。

生物学類には様々な分野の先生方が揃っていて、1~2年次にいろいろな分野の講義・実習を受けることができました。この時期に様々な分野を覗いて学ぶことができたのは有り難かったです。2年生の時に受講した「植物制御学」と「応用生物化学実験」では、除草剤を取り上げ、その効き方にはいくつかのタイプがあり、植物の中でどのような化学反応が起こって植物が枯れてしまうのか、という点を学びました。興味深かったのは、光合成や植物ホルモンの作用など、植物の生長に不可欠な働きをうまく利用することで、逆に毒に変えてしてしまうことです。この分野の研究は除草剤の開発にもつながり、農業の役に立つということも新鮮でした。期末試験の後、松本宏先生に興味を持ったことを伝えると、後日勉強用の資料をいただいたことも嬉しく覚えています。3年次に研究室を選ぶ際は、迷わず「植物機能制御学研究室」を希望しました。

研究室に入って

研究室では、松本宏先生と春原由香里先生にご指導いただきながら、オーキシン型除草剤の作用機構について取り組みました。研究には、実験がうまくいかなかったり、思っていた結果が出なかったりという難しさがありましたが、文献を読んだり、別の試験条件を試したりと試行錯誤していく面白さもありました。4年生最後の卒研発表や学会発表を控えた時期には、研究室の先輩たちが空き時間に何度も発表の練習に付き合ってくれたことも覚えています。

研究室では、研究はもちろんのこと、論文を読んだり、周りに留学生がいたり、何かと英語に触れる機会があったことにも鍛えられました。留学生のチューター(留学生1人に日本人学生1人がつき、履修手続や生活面の手伝いをする制度)として、タイの留学生と研究室で机を並べて、学内や大学近辺を案内したり、一緒に実験をしたりしたこともありました。海外の人と本格的に話すのはこれが初めてで、日本語なら何でもないことも、英語でどう説明したら伝わるのかなと、よく頭の中で言い回しを考えていました。もっと英会話の経験があれば、もっと役に立てたのになあと、少し後悔もあります…。

修士課程の間には、タイのカセサート大学の研究室との交流や、インドで開催された学会の場で、研究発表する機会もいただきました。海外での研究発表に臆する気持ちもありましたが、思い切って手を挙げてみてよかったです。発表直前まで、うまく伝わるように発表スライドやポスターを練って、先生に添削していただいたり、発表原稿を考えたり、準備に四苦八苦しましたが、これは絶対に後々自分の経験になると思いながら頑張りました。当日も発表後に質問に答えるのはやはり大変でしたが、何とか理解してもらえた時は嬉しかったです。タイやインドでの食事や環境を、一緒に行った研究室のメンバーと楽しんだり驚いたりしたのも一つ一つ良い思い出で、得難い経験になりました。

インドでの学会にて研究発表

筑波大を卒業して

研究は面白く、将来も続けるか迷いましたが、一方で行政的な仕事にも興味があり、卒業後は公務員になることにしました。農林水産省に採用されて最初の2年間は、北海道農政事務所(農水省の出先機関)に配属され、札幌で過ごしました。仲のよい友人たちは東京近辺に就職する中、一人で不安でしたが、いざ赴任してみると、若手職員で休日にドライブや登山に出掛けたり、鉄道で一人旅をしたり、北海道ならではの楽しみがありました。また将来の妻になる人ともこの時出会いました。仕事では、自治体や農協が活用できる補助金の事務などを担当しました。大学での勉強とは全く異なる分野に飛び込むことになりましたが、経験豊富な上司に、仕事を丁寧に教えていただいたおかげで、2年目には担当者として説明会で話すこともできるようになりました。現場に近いところで、国の施策が役立てられているのを感じながら仕事ができたのは嬉しかったですし、道内各地に出張する機会も多く、地元の関東とは違う大規模な農業の姿を体験できたのは貴重でした。

その後、現在の部署(東京)に異動し、植物新品種保護の分野の国際対応を行うグループに配属され、アジアでの品種保護制度を整備・向上させるための協力活動などに携わるようになりました。研修で来日した海外の政府関係者に日本の品種保護制度について講義したり、英語の資料を読み、国際会議での対応を検討したり、前のポストとは大きく仕事内容が変わりましたが、研究室で英語に触れた経験がベースになって役に立ちました。国際会議で議長をする上司や、意見がまとまらないときに説得していく上司を見て、まだまだ及ばないなあと思うことばかりなので、もっと経験を積みたいと思っています。着任当初は日本の品種の海外流出が特に話題になった時期でしたが、昨年にはより実効的に新品種を保護できるよう法改正も行われ、在任中に日本の制度が進んだところも大きな経験になりました。

日々の仕事は大変ですが、大学時代にサークル活動で打ち込んだフォルクローレ愛好会の友人たちとの付き合いが息抜きになっています。卒業してからも、演奏会に出たり、飲み会や温泉旅行、登山に行ったりと、今後も付き合い続けられる大切な友人たちです。

終わりに

新型コロナウイルスの影響で人と人とが自由に会えないのは大変厳しいもので、在学中に何気なく様々な人と会い、同じ時間を過ごせたことは貴重なことだったのだと、改めて感じました。筑波大の学生の皆さんや、これから入学する皆さんには、できるだけ機会を捉えて大学で様々な経験をして、忘れ難い時間を過ごしてほしいと思います。

また、たとえ卒業後に研究の道に進まなくても、研究発表や英語を使う経験はバックグラウンドとなって仕事でも役に立つので、筑波大の研究環境を活かして、研究室ではぜひいろいろなことにチャレンジしてみてください。筑波大を卒業した皆さんと、将来どこかでお会いできたら嬉しく思います。

 

(2021年2月)

松本宏先生とともに