卒業生の声

社会で活躍されている卒業生・修了生の活動を紹介します。

No.31 春名 紗季江 HARUNA Sakie
茨城県立医療大学 アイラボキッズ 共同研究員
NPO つくば環境フォーラム 非常勤スタッフ



生命環境学群生物学類

経歴

2009年3月 愛知県立岡崎高等学校 卒業
2009年4月 筑波大学生命環境学群生物学類 入学
2013年3月 筑波大学生命環境学群生物学類 卒業
2013年4月~2019年10月 有限会社 硫黄岳山荘 勤務
2019年11月~現在 茨城県立医療大学アイラボキッズ 共同研究員
2020年4月~現在 NPOつくば環境フォーラム 非常勤スタッフ

 

ホームページの「卒業生の声」には、学生の頃にお会いした先輩方のお名前がいくつもあり、今現在様々な場所で活躍する方々と同じ環境で学生時代を過ごしていた事を誇らしく思います。
思い返せば今も昔も、私は環境や人などあらゆるご縁に恵まれてきました。感謝してもし足りない人生を送っています。今回こちらで自分自身の紹介をさせていただくことで、関係者各位の皆様に少しばかりの恩返し(おかげさまでなんとかやってます)と、こんな人生もあるんだなあ(わりとなんとかなる)という一例を示せたらと思います。

大学生活

高校にも才色兼備で天は何物を与えたのだろう、という人がたくさんいましたが、筑波大学は日本中だけでなく世界中から様々な分野を志す人が集まるわけですから、当然というか想像以上に新鮮で刺激にあふれた学生生活でした。
生物学類に入学したのは、なんとなく幼いころから自然や生物が好きだから、という理由でした。いざ入学してみると、私の知らなかったレベル(桁違い)の虫好きな子や、入学前から研究をしている子もたくさんいて衝撃的でした。それでいて、優しくて楽しい子ばかりで、定期的にクラスや学年で集まるなど授業や実習以外でも交流があったので、様々な興味関心を持つみんなと話し、いろいろな世界を知るのが楽しみでした。
入学してすぐワンダーフォーゲルクラブ(ワンゲル)に入部しました。自然の中で身体を動かしたいという動機で行った新歓の雰囲気が良く、登山初心者でしたが入部を即決しました。さまざまな学類の個性豊かで優しい同期や先輩・後輩に恵まれ、ワンゲルが大学生活の中心になりました。登山が好きになったのはもちろん、みんなと過ごす時間が楽しかったからです。各地へ登山に行った後はそのあたりを観光したり、誰かのアパートに集まって飲み会をしたり、たくさん思い出ができました。

興味のむくままに

授業は生物学類開講のもの以外に心理や体育系の講義を履修したり、菅平や下田での実習をつめこんだり、憧れだった学芸員に必要な単位を取ったりもしました(実習は長野県の大町山岳博物館で)。筑波大が会場となった国際生物学オリンピックのボランティアスタッフをやってみたり、ワンゲルOBの田中健太先生の白馬岳での調査に同行させていただいたり、いろいろな経験をする機会に恵まれました。
アルバイトもいくつか経験しました。宿舎の共用棟のコンビニ 、つくばエキスポセンターでの展示案内、白馬岳蓮華温泉(山小屋)での住み込み、科博の標本資料センターで窪寺恒己先生のもと頭足類の標本整理や深海映像の編集、といったところでしょうか。こうしてみると業種はばらばらですが、どれもご縁や興味があってのもので、それぞれで楽しく充実した時間を過ごしました。今でも交流のある方もいたり、今につながる経験もあったり、頂戴したバイト代以上に価値あるものを得られたと思っています。

卒業し、山へ

卒業研究では、藻類の可愛いさと系統分類学の奥深さに魅了され、植物系統分類学研究室に入りました。中山剛先生のご指導の下、半ば無理やり(テーマは自由とおっしゃったので…)山に関連した研究(山の残雪にいる藻類について)をさせていただきました。研究室のみなさんにたくさんご指導いただき、なんとか無事に卒業できました。
そして、新卒で山小屋の仕事に就くことになります。実のところ、修士でも研究を続けるつもりで進学が決まっていました。晩秋に突然進学を辞退し、殆ど誰にも事前相談せず山へ行くことを決めたので、親や先生方には申し訳なさもありました。ですが、私にとっては「どの道でなら生きていけるのか、頑張れるのか」とかなり悩み選んだ末のものでした。

山ごもり生活から再び下界へ

長野県の八ヶ岳にある山小屋では、調理・掃除・接客・歩荷・登山道整備などあらゆる業務に携わりました。なんでもやれるようになりたい・経験したい、というモチベーションの私にはぴったりで、どの業務も好きでした。八ヶ岳は高山植物の宝庫で、それまで陸上植物への興味がなかった私もあっという間に虜になりました。お花好きで詳しいお客さんも多く、より多くの人とお花のすばらしさを共有したい!と、開花状況を掲示したり、個人のfacebookで積極的に発信するようにもなりました。
山での住み込み勤務生活は、一日の移り変わりや四季の移ろいを肌で感じる、贅沢な日々でした。その一方で、住み込み共同生活ならではの苦労もありましたし、自然相手の仕事が故にイレギュラーなことも多く、心身共に翻弄されることも多々ありました。周囲にたくさん迷惑をかけましたが、おかげで自分の未熟さや至らなさにたくさん気づかされました。
自然の魅力や奥深さは知れば知るほどきりがなく、自然や人とともに在る自分についても、いくら考えてもきりがありません。
6年半勤めましたが、紆余曲折あり、一度山を離れて働くことを決めました。山のある長野か住み心地の良かったつくばか、で仕事を探していたところ、茨城県立医療大学の鹿野直人先生にお声掛けいただきました。これまで学んできた分野や過ごした環境とだいぶ離れていましたが、またとないご縁だと思い、茨城に帰り下界(街)で生活することを決めきました。

硫黄岳山荘と硫黄岳

根石岳山荘と北八ヶ岳

現在

アイラボキッズは茨城県立医療大の地域貢献研究の助成を受け、地元の小学生対象に「医療と科学の体験教室」を企画しています。概案があっていざスタート、という段階で共同研究員として雇っていただき、教室の運営方法や企画構成の検討、ホームページ作成からSNS運営などWEB関係のことなど、あらゆることに携わらせていただいています。サイエンスコミュニケーションに元々興味がありましたが、イベントの企画運営は初めてです。勉強・実践・試行錯誤が同時進行の毎日ですが、かなり裁量を任せていただいていることに感謝し、始動できる日に備えています(2020年7月現在COVID-19のため開催延期中)。
そんな中、里山の自然環境を保全し、親子対象に自然体験イベントをおこなっているNPOつくば環境フォーラムの方々と出会いました。イベント運営や子どもたちとの交流の勉強に、というきっかけで昨年からボランティアとして参加しました。気づけば自分自身が里山で自然と触れ合うことが大好きになり、ご縁あって今年度からは非常勤のスタッフとして活動させていただいています。つくばには学生の頃には気づかなかった魅力的で豊かな自然があふれており、里山の四季の変化も楽しくて(長野の山もたまに恋しくなるけれど)、改めてつくばは素敵なところで、もっと身近な自然に詳しくなりたいと感じています。

県立医療大学前の通りの桜並木

NPOつくば環境フォーラムのすそみの田んぼから

まだわからないけれど

「現世から、離れていった人。」
「レールから外れた人。」
「ただ好きな環境に身を置いているだけなんだろうなあ、と。」
山を下りる少し前、結婚式に呼んでくれたワンゲル同期からのメッセージには、こんな言葉がありました。付き合いの長い同期にそう思われていたことに少し驚いたのは、自分にはそんな自覚があまりなかったからです。言われてみれば…と彼の言葉は自分の人生での選択や歩みを顧みるきっかけになりました。
私には「好きなもの・ことを大事にし続けたい」という気持ちが根底にあります。自分だけでなく周囲の人にとってもそうであってほしいから、尊重しあうために自分には何ができるか、どうしたら役に立てるか、といったことを考えています。
自分に自信はありません。将来も不安ばかりです。ですが、出会いとご縁に恵まれたことは自分にとってかけがえなく尊くて誇りであって、いつまでも大事にしたいと思っています
プライベートと仕事を区別する感覚があまりないので、気持ちの赴くままに過ごしていたら、こうした歩みになっていました。自分でもびっくりです。これからも感謝の気持ちは忘れずに、自分と身近な方にとってよりベターな道を探していこうと思います。

(2020年7月)

(プロフィール写真は2018年、ネパールのGokyoにて)