卒業生の声

社会で活躍されている卒業生・修了生の活動を紹介します。

No.29 冨永 紘平 TOMINAGA Kohei
つくば市経済部観光推進課ジオパーク室
(筑波山地域ジオパーク推進協議会 事務局本部)
ジオパーク専門員

地球進化科学専攻

経歴

2015年 筑波大学生命環境科学群地球学類 卒業
2017年 筑波大学大学院 博士前期課程 生命環境科学研究科地球科学専攻 修了
2020年 筑波大学大学院 博士後期課程 生命環境科学研究科地球進化科学専攻 修了 博士(理学)
2020年 つくば市経済部観光推進課ジオパーク室  現職

「筑波山地域ジオパーク」とは

私は現在、「筑波山地域ジオパーク」の専門員として働いています。ジオパークとは「大地の公園」を意味する言葉で、大地とその上に広がる生態系や人間活動の関連を学び、それらを体験して楽しむことのできる場所を指します。ジオパークでは、地質・地形と生態系・人間活動の関わりを学ぶことができる場所を「ジオサイト」として保全して、それらを教育や観光に役立てて行きます。筑波山地域ジオパークは、笠間市、桜川市、石岡市、つくば市、かすみがうら市、土浦市からなる地域として、2016年に日本ジオパークとして認定されました。筑波山地域では、プレートの運動で形成された鶏足山塊のジュラ紀付加体、筑波山・加波山を構成する深成岩類、また第四紀の海水準変動を記録する地形や堆積岩類などが観察できます。

筑波大学を卒業するまで

私が地球科学に興味を持ったのは、3〜4歳の頃でした。私の地元の埼玉県にはユネスコ村大恐竜探検館(2006年営業休止)という遊園地があり、地球の歴史を映画とアトラクションで紹介していました。私はここでこれまで不変のものだと考えていた地球に始まりがあることを知り、地球科学の研究者になりたいと思いました。その後、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されていた地元の高校に進学し、地学部に入部して地学の先生の地質調査に同行するようになりました。その調査地域は当時ジオパーク認定を目指していた地域で、地学の先生方と町の人々が「地質を使ってこの町をどのように盛り上げるか」語り合っていた様子が象徴的でした。そして、この経験が地球科学を社会に役立てる新たな方法を知った瞬間になりました。
筑波大学の地球学類に入学した私は、学生団体「ジオネットアース」に所属しました。ジオネットアースでは、主に学園祭にて一般の方々向けに地球科学の展示・解説を行います。学群2年になった私は、筑波山地域の大地をよりよく知るために筑波山ツアーを企画したり、防災科学技術研究所の研究者の方に指導していただいて、つくばの地下構造の模型を作成したりと、ジオネットアースの活動に夢中になっていました。大変なこともありましたがワクワクする日々でした。学園祭の当日の展示が完成した時の充実感、一緒に展示を作り上げて来た仲間との達成感、そしてお客さんと地球の面白さを共有できた嬉しさは、今でも覚えています。
卒業〜博士研究では、関東山地の秩父帯ジュラ紀付加体を対象に研究を行いました。群馬県神流町の叶山鉱山にお世話になり、約100日の野外調査の末に地質図を作成しました。当時、生命環境系教授だった久田健一郎先生のご指導では、データの分析だけに終始せず分析データが地層の積み重なりや地質構造の中でどのような意義を持つかを重視していました。その結果、秩父帯ジュラ紀付加体の情報をまとめて過去の海洋プレートの地層の積み重なりを復元し、古太平洋の古地理図を作成することができました。なかなか研究の成果が出せず自分に自信が持てない時もありましたが、どうにか3年で博士論文をまとめ上げることができました。

筑波山地域ジオパークでの仕事

博士3年の冬、就職の見込みがなかった私は筑波山地域ジオパークで専門員の募集があることを知りました。純粋な研究業務からは外れますが、自分の経験や知識を社会に役立てることができる仕事だと感じました。学群時代に夢中になって取り組んでいた、地球科学を一般の方々に伝える事を仕事にできると思いました。当時のワクワクを思い出していました。そして、2020年5月よりジオパーク専門員として着任しました。
ジオパークの専門員としては、 1) ジオサイトの学術的価値の検証、 2) 認定ジオガイドの方々の育成、 3) 学校教育現場や地域住民の方々のための説明会の講師、 4) 研究機関との連絡調整、 5) 拠点施設の整備等の業務があります。まだ着任して1ヶ月ほどですが、筑波大学で卒業〜博士研究を行った経験が活きてくる場面があります。例えば、ジオサイトの保全計画の作成や認定ジオガイドの方々とのやりとりでは、筑波山地域で報告されている学術論文を精査して当地域で解明されていること未解明なことを評価する必要があります。また、実際に野外調査を行い、このジオサイトではどのようなストーリーが語れるのか考えていきます。これら業務の中では、野外で得られた地層の積み重なりや地質構造のデータを大切にするという方針を卒業研究から継続して貫いていきたいと考えています。

学生の皆さんへ

学生の皆さんに一番に伝えたいことは、必ずしも自分が思い描いた通りとは限りませんが、意外なところで自分のやりたい仕事ができるということです。人生の中で自分の思い通りに行かないことはあると思います。それは、自分の努力不足だったり、能力不足だったり、相性だったり、機会に恵まれなかったり原因は様々だと思います。しかし私は現在、地球科学に学術的に関わりつつ、その面白さを社会に伝えていくという、本来自分がやりたかった形で仕事ができています。今、思い返してみると学群時代に本気になって「ジオネットアース」に取り組んだ経験が、現在に活きていると感じます。
また、筑波大学に入学されたらぜひ一度、筑波山地域ジオパークのジオサイトにいらしてみてください。私も学生時代に、地元の友人や家族に対し、茨城のどこを案内すればよいか、何をお土産に買って帰ればいいか分からない、という悩みを抱えていました。筑波山地域ジオパークでは、ジオサイトや認定商品が登録してあり、筑波山地域の大地の見どころや大地の恵みを生かした特産品を紹介できます。
もし、筑波山地域ジオパークにいらしたら専門員の私に声をかけてみてください。ジオサイトで皆様にお会いできることを、楽しみにしております。

(2020年6月)

 

   2020年2月 筑波山にて