卒業生の声

社会で活躍されている卒業生・修了生の活動を紹介します。

No.28 持丸 華子 MOCHIMARU Hanako
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
地圏資源環境研究部門
地圏微生物研究グループ 主任研究員

生物機能科学専攻

経歴

2001 筑波大学第二学群生物資源学類 卒業
2003 筑波大学大学院修士課程バイオシステム研究科バイオシステム専攻 修了
2007年 筑波大学大学院  生命環境科学研究科 生物機能科学専攻 修了  博士(農学)
2007年 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 契約職員
2009 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 現職

筑波大学を選んだ理由

私には小学1年生の頃から科学者になる夢がありました。近くで開催された、「つくば科学万博’85」で体験した数々の夢のような科学技術の影響があったと思います。研究所の一般公開にも参加でき、様々な研究所がある筑波研究学園都市は、私にとって特別な場所でした。高校生の時に出会った、「風の谷のナウシカ」というマンガや環境汚染物質を分解する微生物の本に感動して、微生物学者になりたいと思いました。唯一の分解者である微生物はまるで救世主のようだと感じたからです。筑波大学は環境微生物について学べること、体育や芸術といった他の専門的な授業も受けられること、周りに様々な研究所があることから、私は志望校を筑波大学にしました。入学してみて、実際に体育、芸術、心理学など様々な授業を受けられてとても楽しかったです。

サークル活動とアルバイト

大学に入学してすぐに高校生の頃から憧れていたマリンダイビングクラブに入部しました。このスキューバダイビングには本当にお金がかかります。そこで、時給の良い塾講師と家庭教師のアルバイトを始めました。ダイビングの為に稼ぐのだから、このお金はダイビングにだけ使うと決め、とにかくダイビングに熱中しました。そのうちにダイビングに使いきれないくらいお金が貯まってしまうようになり、なんのためのアルバイトなのかわからなくなってきました。そこで、アルバイトの仕方を変えてみることにしました。夏休みの長期あるいは土日に、ダイビングショップで住み込みのアルバイトをすることにしました。ダイビングショップに併設されている民宿の送迎、ご飯作りや掃除をする代わりに、ダイビング代と宿泊食事代が無料なのです。このようなお金を介さないギブアンドテイクのシステムがあるということを先輩から聞いて、行きたい地域のダイビングショップに一軒一軒電話をかけて交渉してみたりしました。結局、人気の地域ではうまく行かず、先輩の紹介で三宅島や隠岐の島に住み込み、ダイビングをしました。行ってみると、どちらもそれぞれ最高に美しい海でした。ダイビングだけでなく、人脈の大切さ、接客や同僚上司とのやりとりなど学ぶことがたくさんあり、大学生だからできた良い経験だったと思っています。こうして、アルバイトをせずに趣味ができるようになり、アルバイトの時間を将来のために使いたいと思うようになりました。そこで、農業環境技術研究所で遺伝子組換え大豆を作成している研究室でアルバイトをすることにしました。最新技術にふれたワクワクした気持ちは今でも鮮明に思い出せます。その後、国立環境研究所や産業技術総合研究所など様々な研究室でお世話になり、プロの世界を体験しながら充実した学生生活を送りました。このように授業の後に研究機関に簡単に行かれるというのは筑波大学の最大の利点だと思います。

産業技術総合研究所へ就職

環境汚染問題を解決したいと思って志した研究者でしたが、大学3年生の時に西シベリア湿原に生息するメタン生成菌と出逢いました。メタン生成菌はメタンガスを発生させる、酸素が存在しないところでしか生きられない絶対嫌気性の古細菌です。420 nmの光を当てると染色しなくても青緑色に光ります。多種多様な微生物の中で、メタン生成菌だけが光輝く美しい姿を見たときに、私は恋に落ちました。メタン生成菌は、都市ガスとして使われるようなエネルギーを作る微生物です。メタンは、集めればエネルギーとして使え、大気中に放出すれば地球温暖化物質となります。諸刃の剣ですが、そのぶん目が離せないステキな研究対象ということになります。私の叔父が大学教員だったこともあり、博士号取得後の就職が簡単ではないということは知っていました。努力だけではなく運も必要と聞いていました。なんて不確かな道だろうと不安に思うこともありましたが、企業への就職や結婚にしても、すべて何も確かなことはありません。運というよりタイミングだったり、相性だったり様々な要因により、道は決まるはずです。だから私は一番ワクワクする道を選びました。私が現在行っているのは、地下深部の油田やガス田に生息してメタンを生成する微生物がどのように関わり合って、どんな物質からどのようにメタンを作っているのかを明らかにするための研究です。千葉県を中心として関東平野の地下深部には微生物が作り出したメタンがたまっている広大なガス田が存在しています。同様のガス田は新潟県、そのほか日本全国に点在しています。この機能を解明して、ガスを増産できるようにしたいと考えています。地下には、名前も無い新しい微生物が数多く生息しているので、そのような微生物を分離培養し、それぞれの性質を明らかにすることも行っています。(産総研×講談社ブルーバックス編集部 研究室探訪記コラボシリーズ「さがせ、おもしろ研究!ブルーバックス探検隊が行く」水品壽孝氏記事:第16回「石炭を食べて天然ガスをつくる「孝行者」の菌がいた!~ナウシカの腐海に魅せられた女性研究者の”仰天“発見記」2018年9月28日掲載)

現在、産業技術総合研究所の研究職への就職は、まず任期付き職員となり、数年後の業績審査に受かることで任期無しの就職となるのが主流です。時々、試験採用もありますので、情報収集は大事です。私は宝くじを買うくらいの気持ちで期待せず、ダメモトで受けた試験で運よく採用されました。努力だけでなく運、という言葉の良い面が出ました。

学生さんへ

大学生活というのは、大人としての責任を持ちつつ、社会人になる一歩手前の一番自由なときだと思います。勉強だけでなく、好きなことをトコトンやってみるとか、友人と夜な夜な議論を重ねてみるとか、時間が制限されてしまう社会人になる前にぜひ様々なことにチャレンジしてみてください。目の前の情報や予算の中から選ぶのではなく、こんなだったら最高に良いな!ということをまず思い描いてみてください。そうなるために必要なことは何かな?など色々楽しく想像していると、生活しているうちに様々なヒントが現れます。そのヒントを一つ一つ拾い集めていくと、その夢に導かれていたかのように、夢は現実となります。是非、何の制限もかけずに最高の夢を思い描いてみてください。もちろん、上手く行く時だけではなく、心が折れるような時もあります。でも、後から振り返ると逆風にも将来への良い意味があったことに気づきます。暗い気持ちで視野が狭くなったと感じた時は、まずはよく休んで、元気が出たらキラキラしたエネルギーに満ちた人に会ったり、新しい世界に触れてみたりしてみてください。今までとは違う新しい自分を発見することができるはずです。

私は子供の頃に、偶然目にした絵葉書の言葉に、いつも励まされています。「できるかどうかじゃない、したいかどうかだ」。常識にとらわれず、諦めなければ、自分で思う以上にできることはたくさんあります。あなたも夢をしっかりと抱いて、光の方向へ自分の歩幅で歩んでください。

(2020年5月)