卒業生の声

社会で活躍されている卒業生・修了生の活動を紹介します。

No.23 鈴木 義孝 SUZUKI Yoshitaka
株式会社 フロンティア 総務部長
紅茶コーディネーター資格保有


理工学研究科

経歴

2002 筑波大学第一学群自然学類 卒業
2004 筑波大学大学院理工学研究科 修了

筑波大学入学

私は1997年に筑波大学第一学群自然学類に入学し、地球科学主専攻(現 生命環境学群 地球学類)に進みました。入学当時のつくば市にはつくばエクスプレスはなく、東京都内に出るにはつくばセンターからの高速バスか土浦駅から常磐線となっていて、「陸の孤島」と揶揄されることもありました。休日には大変賑わっているイーアスつくばやイオンモールつくばもなく、学生にとって誘惑の少ない当時の環境はまさに『研究学園都市』。学生は主業である授業・ゼミ・研究活動に専念出来る環境であったと思います。

二年生から各専攻に分かれると、私は地球科学分野で地形や地層を学び、卒業研究は指田勝男教授のもとで、タイの放散虫化石をテーマとしました。放散虫はシリカ質の骨格を持ち、古生代から広く海洋に生息しており、地層の年代推定を行うのに適した微化石です。私は実際にタイに行かせていただき、現地調査と岩石資料のサンプリングをしてきました。持ち帰ったサンプルは大学研究室で化石を抽出する処理をし、電子顕微鏡で撮影したあと、文献と照らし合わせて化石の鑑定と地層の年代判定をする。微化石というだけあって、顕微鏡スケールの小さな個体を扱う過程はとてもやりがいがあり、その小さな化石が記録している地球規模の変動を解明する研究にのめりこんでいきました。論文の記述には非常に苦労しましたが、指田勝男教授をはじめ、諸先輩や留学生、同級生の助けもあり最終的に「卒業論文」としての形になった時には、達成感と充実感で感動したのをよく覚えています。

筑波大学大学院理工学研究科(修士課程)へ

卒業論文でタイの古生物学をテーマとしたのち、大学院の理工学研究科へ進学しました。卒業後の進路というものが定まらなかったことに加え、卒業論文で扱った放散虫にすっかり魅せられ、もっと研究したいと思ったのが進学理由です。修士研究では、引き続き指田勝男教授のもとで、東京都西部の五日市地域(あきる野市~奥多摩町)を研究対象地域とし、地層の露頭を求めて林道から尾根へ、尾根から谷へと歩き回り、岩石資料のサンプリングや地層分布の記録を行いました。調査エリアが広範囲であったため、車中泊はもちろんのこと、時には野生動物が走り回る山中で数日~1週間泊まり込みも行いました。今の私の持ち味でもある“行動力”や“自主性”“忍耐力”は、この経験からより強固に養われたと思います。

研究室では毎日15時になると、私の趣味でもあった紅茶を飲みながら、教授や研究室メンバーと他愛もないことを話したり、時には真面目に議論したりと日々の交流を楽しみました。なかなか珍しい研究室での時間の過ごし方とは思いますが、教授や研究室メンバーと過ごすこの時間は、修士研究を進めるうえで間延びしがちな研究室生活のスパイスにもなり、とても有意義なものとなりました。

そして時には励まし合い、時にはぶつかり合い、納得のいくまで見直し、指導教官からは厳しい指摘と指導をいただきながらも、修士論文として完成した時には何ともたとえようのない満足感と達成感に満たされました。今の私につながる“自主性”や“行動力”を身につけさせてくれた、非常に充実した研究生活でした。

社会人生活を充実させるために~2枚目の名刺~

私は筑波大学大学院での研究生活を終えた後、これまでの分野とは全く異なる職業へ就くこととなりました。この理由としては、当時はひどい就職氷河期であったことに加え、研究に没頭するあまり、就職活動に気が回らず、行動開始が遅れてしまったことが原因となっています。

いざ社会人として、会社に勤務すると想像を超える厳しさで、日々の営業と事務業務に追われ、時間的に全く余裕のない暮らしを送っている自分がいました。ある時にはメンタル不調に陥り、一時職場を離脱することもありましたが、学生時代から続けていた趣味の『紅茶』が心身の健康を見直し、生活のリズムを取り戻すことで、忘れかけていた周囲への関心を取り戻すきっかけになりました。

現在私は本職の仕事の合間や休日で『紅茶コーディネーター』として、小学校や保育園、公民館などで日々のストレスケアや子育て支援の活動を行っています。この活動を通して思うのは、現代はまさに“ストレス社会”であること。そしてその影響は年齢や性別に関係なく誰にでも「メンタル不調」として出てきています。学生時代にはなかった社会の厳しさの中で、自身を保ちつつ過ごしていくことは容易なことではありません。

そこで私が社会に出ていく学生の皆さんにお勧めしたいことは、学生のうちに何か一つ趣味や興味・関心をもって打ち込む何かを見つけておくことです。つまりこれから進む道のほかに、もう一つ別の道を見つけておいてもらいたいと思います。私はこれを“2枚目の名刺”と呼んでいますが、仕事以外に何か一つ「自身の強み(2枚目の名刺)」を持っていれば、本業の仕事に躓いた時に非常に効果の高いリフレッシュツールになります。どんなに自身の望んだ道であっても、失敗は必ず経験しますし、思い通りの結果が得られないことも出てきます。そんな時にまったく逃げ場がなかったらを考えてみてください。

“2枚目の名刺”の内容は人それぞれ異なります。私のように一つのことに専門性を追い求めるのも良いし、「野球が得意」とか「コーヒーが好き」のような大雑把な内容でも構いません。『好きこそものの上手なれ』という言葉にある通り、自身の興味関心ごとは知識欲も高く上達も早いものです。そしてこの存在は、仕事の中で壁にぶつかったとき、大きな助けとなって、再びチャレンジする原動力になります。

私は筑波大学で専攻した分野とは異なる職種に就きました。当初は「学歴を生かしていない」とか厳しい意見もありましたが、今では周囲から羨ましがられるほど充実した社会生活を送っています。

人がどの道に進み、どの職に就くかは就職活動のタイミングや個々の考えなど、様々な要因で決まってきます。たとえどの道に進んだとしても、羨ましがられるくらい明るく、胸を張って過ごしていけるように、大学生のうちからたくさんのことに興味を持ち、たくさんの人に関わり、たくさんの情報を取り込んでおいてもらいたいと思います。

さいごに

私は筑波大学入学から大学院生活を通して、物事に興味を持ち、新しい知識を得ることの楽しさと共に、学生生活では学生同士互いに関心をもって支え合うこと、自主的に考え行動することの大切さを学びました。これは現在に至るまでの私の職業人生に非常に役立っており、筑波大学での学生生活があったからこそです。在学中の皆さんも“今しかない時間”を大事に、一つ一つの授業や研究生活を真剣にかつ心から楽しみ、悔いを残すことが無いように精一杯大学生活を過ごしてください。

そして是非、“2枚目の名刺”となる自身の強みを見つけてください。

 

 

(2019年3月)