卒業生の声

社会で活躍されている卒業生・修了生の活動を紹介します。

No.19 安ヶ平 良人 YASUGAHIRA Yoshindo
メルシャン株式会社



生物資源学類/生命環境科学研究科

経歴

2004 筑波大学第2学群生物資源学類 入学
2008 筑波大学大学院生命環境科学研究科微生物機能利用学研究室配属
2009 筑波大学ブランドの日本酒「桐の華」開発
2010 修士号取得後、メルシャン株式会社入社。藤沢工場 製造課配属
2012 メルシャン藤沢工場 品質管理課配属
2013 シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリー配属(山梨県)
2014年 日本ソムリエ協会 ソムリエ取得
2017年 山梨大学認定 ワイン科学士取得
2018年 シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原ワイナリー配属(長野県)
2018年 社団法人葡萄酒技術研究会 ワイン醸造技術管理士(エノログ)取得
2019年 メルシャン 品質管理部配属

初めに

「卒業生の声へ」の投稿の依頼にお声かけ頂きまして大変光栄に思っております。現在、私は、メルシャン株式会社という主にワイン事業を専門に扱うキリンホールディングス株式会社の子会社で、品質管理の仕事に従事しています。学生時代にお酒の魅力にはまり、今現在に至るまでの経緯や当時の学生生活についてお話しできればと思います。

筑波大学ブランドの日本酒プロジェクト

まず自己紹介ですが、私の大学生活で欠かすことのできない話題は筑波大学ブランドの日本酒「桐の華」を造ったことです。この時のことをお話します。生物資源学類では大学3年次の終わりには研究室の配属が決まりますが、現在はもう退官されています、内山裕夫先生の微生物機能利用学研究室に配属が決まり研究を行うことになりました。研究室自体は環境微生物学の研究室で、微生物による環境浄化を行う研究を主に行っているところでした。さて研究テーマをどうしようかと日々悩んでいたその時期にちょうど友人と飲み屋に行った時のことです。普段ビールや甘いカクテルしか飲まなかったのですが、ふと日本酒のメニューが気になり、片端から飲んでやろうと様々な日本酒を飲みました。その中でとてもおいしい日本酒があったのですっかりはまってしまい、いろいろな味わいのある日本酒は面白いなと興味が湧いてきたのです。そして、研究テーマを決める時になり、たまたま内山先生から「誰か日本酒の花酵母の研究をしてみないか?」と言われ、興味があった私は真っ先に手を挙げたのを覚えています。

環境中には様々な場所に酵母が存在します。簡単に言うとアルコールを良く作る発酵力の強い酵母は、果実やはちみつ、花といった甘い場所に多くいるのです。そこで「筑波大学の校章は桐葉のマークなのだから桐の花から清酒酵母を分離しよう!」と言ったのが研究の始まりでした。そしてどうせやるなら大学ブランドの日本酒を造ってやろうじゃないかというところまで夢が広がりました。さて、ここで問題なのが桐の花から酵母を取らなくてはいけないわけですから花がないと研究ができないわけです。桐の花の開花時期は4月下旬から5月上旬にかけてだったのですが、大学4年次にそのテーマを始めたのがすでに5月上旬であったため咲き終りに近い時期で出遅れてしまいました。一年目は桐の花が満足に手に入らなかったのです。完全に失敗でした。一年間は何をしていたかというと、まずは清酒酵母に向くSaccharomyces cerevisiaeという種類の酵母を取るために分離培養条件の検討をしていました。培地のpH調整剤の選定や砂糖の濃度を高くしたもの、アルコールを加えた培地に様々な花をそこら中から集めては培養するといったことを続けていました。その結果、初めは目的とは異なる産膜酵母ばかり培養されていたのですが、これならいけそうだという培地条件を選定できました。大学院に進んですぐの4月下旬に、あらかじめつくば市内を散策して見つけた桐畑の地主さんと交渉したり、または大学内の桐の木を見つけることで、沢山の花を採取することができました。選定した培地を使い、花を入れて培養したら、運よく発酵力の強い酵母が分離できた培地がいくつかありました。選抜していく中で1675株の中から8株の酵母を候補として選ぶことができました。そして日本酒造りに向く酵母かどうかは実際に造ってみないとわかりませんので試験醸造に供することになります。醸造協力は茨城県の筑西市にある「来福酒造株式会社」様に委託しました。現場に行って初めて1トンスケールでの試験醸造をしていることを知りとても驚きましたが、そのおかげで1株の酵母において実スケールでも発酵力が強く、味わいも面白い日本酒を造る酵母を選ぶことができました。そして醸造が本格的に行われ筑波大学ブランドの日本酒「桐の華」として発売にこぎつけることができました。

内山裕夫先生と桐の華を持っての記念写真

 

ワインとの出会い

ワインとの最初の出会いはサークルの友人とワイン会をしたことがきっかけになります。清酒酵母の研究に没頭する中で、ワインに関する文献も多く読んでいたのでふとワイン会を開いてみたいと思ったのがきっかけでした。ワイン会で感じたのは普段は騒いでばかりの飲み会が、皆がワインについて話をしながら、普段話さないような話題や落ち着いた雰囲気の中で盛り上がったことがとても印象的でした。このことでワインは他のお酒と違うところがあり、お酒自身について語りながら飲めることや、普段とは違う特別な時間を提供してくれるものだなと感じました。就職活動の中でも、今働いているメルシャンに出会ったのも偶然ではありました。当時は社会人になってもお客様に自分の造った酒で喜んでもらいたいと思い、お酒の会社に入りたいとの思いで就職活動をしていました。ある日、研究室の先輩から、メルシャンの人事の方がとても印象が良かったという話と、国内におけるワインのリーディングカンパニーで、お酒の事で研究をしているならきっと好きなこともできると思うよと紹介がありました。縁もあったのか、メルシャンに内定をいただいたときはとてもうれしかったのを覚えています。

2010年に入社して9年経ちますが、そのうち5年半はシャトー・メルシャンという、山梨、長野に拠点を持つ日本ワインを製造するワイナリーに勤務しておりました。ここでいう「日本ワイン」とは、日本で収穫された生ブドウ100%で造ったワインで、近年様々な日本のワイナリーで造られた「日本ワイン」が海外のコンクールでも表彰され世界的にも注目されてきています。シャトー・メルシャンでは、主に樽の中に入れられたワインの貯酒管理やブレンド作業、樽発酵の管理や学会発表のための実験などの仕事を行っていました。学生時代に培った酵母に対する知識も、お酒の知識も、実務にとても役に立ちました。

そして夢でもあった、自分自身が醸造に携わったワインが日本ワインコンクールで金賞を取った時の嬉しさは今でも忘れません。このころには日本ワインにどっぷりはまっていて月に数回はワイン会に行き、週末にはワインバーにも通いました。会社の支援もありソムリエの資格も取りましたし、山梨大学に社会人学生として勉強させてもらうことでワイン科学士という資格も取りました。ワイン醸造技術管理士(エノログ)という認定資格もいただき、ワイン造りに対して自信を持てるようになりました。学生時代からの経験が仕事に活かされて身についていること、このようなキャリアをつめていることには感謝しかありません。これからもお酒で人を幸せに出来る仕事をしていきたいと思っています。

終わりに

学生時代の私は日本酒やワインに出会うまでは、夢という夢は正直ありませんでした。その中で様々な人との出会いがあり、その方々の協力があって夢が見つかり、今の自分のキャリアがあるのだと思っています。現在皆さんの中には進路や目標に迷っている人もいると思います。まずは自分の好きなことは何かを考えて、それに素直に従って一生懸命になってみるのも良いかもしれません。好きなことや出会った人が自分自身を成長させてくれると思います。大学時代の研究で一年間は失敗に終わったと書きましたが、その時にもできることはいろいろありました。今となっては良い経験ですが、学生時代は失敗を恐れずにいろいろなことに挑戦してはどうでしょうか?そして疲れたら、筑波大学の日本酒の桐の華を飲んで一息ついたり、友人とワインを飲んで、将来の夢を語りあったりしてみたらいかがでしょうか(笑)?ワインに興味がありましたら是非メルシャンのワインをお試しいただいたり、シャトー・メルシャン見学にも足を運んで頂き楽しんでいただけたらと思います。少しでもこの記事を通してお役に立てたらと思っています。皆様のご活躍を願っています。