卒業生の声

社会で活躍されている卒業生・修了生の活動を紹介します。

No.18 島田 敏 SHIMADA Satoru
島田設備株式会社 取締役



農林学類/環境科学研究科/生命産業科学専攻

経歴

1988 筑波大学農林学類 卒業「熱帯果実のCA貯蔵に関する研究」
1991 筑波大学大学院修士課程環境科学研究科修了 修士(学術)「共有林と共に生きる人々の研究~林野共同体“室谷”における共同体維持機構の解明~」
1991 難民を助ける会(AAR)ボランティア(ザンビア共和国メへバ難民キャンプ)
1992年~ 島田設備株式会社(現在に至る)
2003 筑波大学博士課程生命環境科学研究科 入学(国際地縁技術開発科学専攻)
2005 筑波大学博士課程後期課程生命環境科学研究科 入学(生命産業科学専攻)「メタン発酵によるバイオマスエネルギー化システムの実用化」
2008 筑波大学博士課程後期課程生命環境科学研究科中退
2008年~ エコの木プロジェクト誕生(現筑西市商工会エコの木プロジェクト部会)
2010~2014年 茨城大学地球変動適応科学研究機関ICAS産学官連携コーディネータ
2012年~ いばらき自然エネルギーネットワーク事務局長
2013年~ つくば3E フォーラムバイオマスタクスフォース委員
2018年 上記研究プロジェクトで開発した教育用アクアポニクスシステムをプロジェクトチームメンバーと世界湖沼会議にて展示

大学を卒業して今年で30年が過ぎました。学類時代には農産工学の研究室に所属し熱帯果実のCA(controlled atmosphere)貯蔵の研究をし、大学院(修士課程)においては文化生態学研究室に所属しフィールドワークを通して林野の所有と利用の視点から伝統的な村落共同体の維持機構について研究をしました。その後、7ケ月間、ザンビア共和国でのNGOの活動に参加し、井戸掘りや道路補修に従事し、帰国後以降は家業である設備工事業に従事しております。

社会人として、改めて大学での研究に係るきっかけとなったのは、学類時代の恩師である前川孝昭先生から工場を作るので手伝って欲しいと声をかけられたことでした。当時、前川先生は、アガリクスタケの菌糸体培養に関する特許を取得し、その事業化に取組んでいるタイミングでした。また私自身もバブル崩壊後、景気も悪化し本業の経営も難しい中、何か新たな取組をしなければと必死で考えていた時期でした。工場を完成させた後、社会人学生として大学院への進学を相談した際に「メタン発酵によるバイオマスエネルギー化システムの実用化」というテーマを頂きました。本業として設備工事を行っていたため、メタン発酵装置の製作、開発、運転など、技術的な経験を同時に活かせると私は考えました。実際には、すでにプロジェクトが進んでいる中にメンバーの一人として関わっていくという形でのスタートでしたが、この研究プロジェクトは文科省から茨城県が交付金を得て受託した“都市エリア産学官連携プロジェクト「霞ヶ浦バイオマスリサイクルエネルギー開発事業」”という大きなプロジェクトで、この事業に関わったことで得られた経験は、後述するいばらき自然エネルギーネットワークの構築や世界湖沼会議でのアクアポニクスの展示等へと繋がっています。

一方、この社会人大学院生時代にも、地元では商工会青年部や消防団など地域の活動も継続して携わっていました。ちょうど商工会青年部の部長が終わるタイミングとも重なっていたため、私は青年部の仲間に対して、大学院で学んだ温暖化の現状とこれからの社会の変化について会議終了後にほんの少しだけ時間をもらって話をさせてもらいました。2008年頃の話なので、温暖化の話もまだ、社会としては現実的に捉えていない時代だったため、みんな何を話しているのかピンとは来なかったようでしたが、このことがきっかけで商工会の中にエコの木プロジェクトという活動が誕生しました。エコの木プロジェクト部会は、商工会に誕生した低炭素社会づくり部会で、全国の商工会でも初めての取組となりました。10年後の現在も活動を継続中です。エコの木プロジェクト部会では、農産物を太陽熱で乾かすソーラードライヤーの開発も行っていますが、2017年には、この開発の取組を『エコの7次産業化』という概念で整理し環境省のクールチョイスリーダーズアワードで優秀賞を受賞しました。

エコの木プロジェクトの活動は、個人的にも色々なものをつなげてくれました。2010年~2014年までの4年間、茨城大学地球変動適応科学研究機関(ICAS)の産学官連携コーディネータを委嘱され、本業の設備工事業と兼務で業務に携わりました。特に2011年の東日本大震災をきっかけに茨城県内でも再生可能エネルギーに係る横串のネットワークを構築しようという機運が生まれ、いばらき自然エネルギーネットワークを誕生させました。このネットワークの構築にあたっては、先の都市エリアプロジェクトで培ったネットワークが活用でき、茨城県内で震災前から自然エネルギーに係る取り組みをしている自治体、関係者に声がけしネットワークの土台を作ることができました。

つくば3Eフォーラムへの参加は、エコの木プロジェクトの地域での低炭素社会づくりの活動がきっかけで、第1回目から参加をさせて頂きました。また、その後、いばらき自然エネルギーネットワークの活動、都市エリアプロジェクトでのバイオマスエネルギー化システムも実用化に関する取組の経験などがかわれバイオマスタスクフォースの委員として活動をさせてもらっています。2016年から3年間、それ以前から取り組んでいたアクアポニクスの取組みに研究支援を頂き、2018年11月には、茨城県で開催された世界湖沼会議にて展示を行いました。アクアポニクスとは養殖と水耕栽培を組み合わせた技術です。私にとってこの技術開発は、生命産業科学で学んだこと環境科学で学んだこと農林学類で学んだことをすべて注ぎ込んでもまだ足りない幅広い知識とノウハウを要する技術体系であるため学んだことを全力で活かすとても良い機会となりました。

茨城大学ICASで産学官連携コーディネータをしたことで、毎年1回、茨城大学大学院で、持続社会システム論Ⅰという講義を1回分担当させていただいており、その中で環境人材について話をしています。環境人材とは、専門性を縦の柱に、俯瞰的な視点を横の柱としたT字型の人材像であり、全体を高い位置から見おろしながら分野横断的な知識と自身の深めた専門性を武器に課題を解決し前進する人材を育成しようという取り組みです。この授業の中、私は足場を見つけることの重要性について学生の皆さんに話をするようにしています。足場とは、私が生命環境科学研究科で受けた再生医療に関する授業の中で教わった話です。再生医療では、初めの頃は、溶液培地の中で懸濁した状態で培養した細胞が、なかなか組織を形成できなかったそうです。しかし、ある時、細胞が定着しやすい細胞の足場となるような素材を培地に投入してみた所、細胞が素材に定着し、そこから組織を形成するできたという話です。足場材には生物親和性のよいポリ乳酸などの素材が用いられていることでした。私の卒業後の活動も振り返ってみると、職業の専門性も含めた専門性と、学類や大学院、地域の仲間との間でえられたチーム力によって得られたT字型が少しずつ自分の中に作り上げられてきたのかなと思っています。また、一人では考えてもみなかった活動の形成が、仲間に問いかけてみた所から一気に商工会の活動まで広がったことを思うと、自分にとっての社会との接点(足場=Scaffold)が商工会青年部の活動だったのかなと思うのです。

大学や大学院で学ぶことは、良い仲間、良い友人、良い指導者と良い同僚との出会いとそれぞれの世界を広げることや専門的な分野へのそれぞれの造詣を深めていくことです。しかし、そこで学んだこと、研究したことを、実社会に適用していくには、どうしても何かに繫がる必要があります。そういった何かに繋がった時に皆さん自身も生き生きとし学びが社会に活用されるのではないかと思います。

大学や大学院で学ぶ内容は、20年から30年あるいはもっと先の未来を見渡せる知識です。皆さんが研究し学んだものは、これから関わっていく多くの仕事や活動を通してさらに多くの人達に伝えられていくはずです。定着すべき親和性のよい足場(Scaffold)を見つけ、積極的に社会に関わっていくことが、研究者としても一社会人、生活者としても皆さんの人生を充実したものとしてくれると思います。皆さんご活躍を期待しています。