卒業生の声

社会で活躍されている卒業生・修了生の活動を紹介します。

No.10 須黒 達巳 SUGURO Tatsumi
慶應義塾幼稚舎 教諭



生物学専攻

経歴

2005年4月~2008年3月 神奈川県立柏陽高校普通科
2008年4月~2012年3月 筑波大学生命環境学群生物学類
2012年4月~2014年3月 筑波大学大学院生命環境科学研究科生物学専攻
2014年4月~2016年3月 自然環境研究センターなどで野外調査や標本同定のアルバイト
2016年4月~現在 慶應義塾幼稚舎 教諭

著書

1.「世にも美しい瞳 ハエトリグモ」(2016) ナツメ社

2.「ハエトリグモハンドブック」(2017) 文一総合出版

俺の人生は俺のもの お前の人生はお前のもの

精鋭の先輩方が名を連ねる「卒業生の活動」のページへ、寄稿のお誘いをいただいた。元フリーターの私には少々荷重だが、「いろんな人がいる」ことを示す枠と捉えていただければ幸いである。まずは自己紹介がわりに、在学中からの歩みについて簡単にふれる。私は在学時より、ハエトリグモというクモの分類学の研究を行っている。これまでに5種の新種を発表し、13種のクモに和名をつけた。修士課程の頃に、文一総合出版の編集者から「ハエトリグモの図鑑を作らないか」との誘いを受け、これに全力を挙げて日本産の全種を掲載するために、卒業後はフリーターになった。アルバイトをして資金が貯まったら採集旅行に出る、という暮らしをし、多くの方から協力をいただきながら足かけ5年の制作期間の末、日本産の既知種 105種のうち103種を掲載した図鑑を「ハエトリグモハンドブック」として出版することができた。現在は慶應義塾幼稚舎にて、理科の教諭として勤務している。

実は私は、卒業直後にも研究科のホームページに寄稿している。その時の原稿を読んだり、当時を振り返ってみると、私は本当に世間知らずで生意気で幼稚な男だった。幼稚すぎて、「ああしろこうしろ、あれをするなと口出ししてくる大人はすべて敵だ!奴らの言うことを聞いてはならない!」くらいに考えていた。夢に向かってまっしぐらだったと言えば聞こえは良いが、それに踏み切れたのは世間知らずだったことが大きい。そんな私に、思うがままの選択をさせてくれた周りの方々には本当に感謝している。昨今の就職の難しさ、職にあぶれることの大変さを知っている人ならば、そうそうこのような選択はしないだろうし、やめさせようとしても何ら不思議はない。しかし、幸いなことに私の近くにいた方々は、はじめ反対したとしても最後には「君の好きにしなさい」と言ってくれた (何を言っても無駄だと諦めていたのかもしれないが)。今、結果的に夢をかなえ就職もできたから言えることだが、本当に良い道を歩ませてもらったと思っている。

教員の職に就き、ますます実感することであるが、自分の子どもや教え子、後輩には、何かと心配して手をかけたり道を示してやりたくなるのが人間である。私も、自分はさんざん反発していたにも関わらず、気づけば生徒にあれこれ手助けをしてしまっていることがある。もちろん必要な場合もあろうが、過ぎたる助けは本人の成長の機会を奪うことである。過去の自分の言葉を借りれば、「人生における本人の割合を殺していくこと」である。てこずりながらも頑なに自力でやろうとする生徒を目にする度に、その姿にかつての自分を見る。「俺の人生は俺のもの お前の人生はお前のもの」とは、漫画「ドラえもん」に登場する国民的人気キャラクター、ジャイアンの名台詞を文字ったものであるが、その心は次のようなものだ。どんなに可愛かろうと、心配だろうと、人生の主役は本人にしかなれない。自分が自分の人生の主役である自覚を忘れてはならないし、他人の人生の主役を奪ってはならない。未来を担う学生のみなさんの人生が「親を安心させよう物語」や「先生に褒められよう物語」にならないよう、心から応援したい。