卒業生の声

社会で活躍されている卒業生・修了生の活動を紹介します。

No.06 芝原 暁彦 SHIBAHARA Akihiko
古生物学者・学芸員
産総研ベンチャー 地球科学可視化技術研究所 CEO(兼)代表研究員
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質標本館室 学芸員

生命環境科学研究科

経歴

2000 筑波大学第一学群自然学類 卒業
2007 筑波大学生命環境科学研究科後期博士課程 修了(理学博士)

主な著書

・化石観察入門(単著、誠文堂新光社、2014)

・薄片でよくわかる岩石図鑑(共著、誠文堂新光社、2014)

・世界の恐竜MAP驚異の古生物をさがせ!(監修、エクスナレッジ、2016)

私は恐竜化石の産地として有名な福井県で生まれ、幼少期から化石を発掘する日々をすごしていました。特に4歳のときに国立科学博物館で見たタルボサウルスの全身骨格のビジュアルは強烈に記憶に残り、その後はずっと古生物を研究することを夢見て各地の博物館に通い詰めました。地元の高校を卒業し、筑波大学に入学した後も、夏になると大学の同輩たちと故郷に帰り、福井県立博物館(現:福井県立恐竜博物館)が主催する福井県勝山市の恐竜発掘プロジェクトに参加していました。この時に現場作業を共にした友人たちとは、現在も研究仲間として交流を続けています。

卒業研究では担当教官である小笠原憲四郎先生(現:筑波大学名誉教授)のご指導のもと、富山県有峰地域周辺の手取層群の調査を行いました。同地には半年間滞在して調査を行いましたが、自分自身の力不足、特に地形図の判読能力の低さを思い知ることになりました。そこで地図を改めて勉強しなおすため、芸術専門学群で使われている造型用の紙粘土で立体の地形図を作り、調査結果と見比べながら地質図を作る日々が続きました。この経験から、地図を立体化することの有効性に気付かされました。

学部時代は筑波大学のSF研究会「アルビレヲ」にも所属し、3D-CGや三次元造型、映像製作などの技術と触れ合う機会を得ました。この研究会では古典的なSFから最新のデジタル映像技術までを横断的に議論し、広い筑波大学の中で様々な分野の学群生と知り合う貴重な場となりました。このサークルで私はミニチュアセットを使用したSF映像製作に携わり、当時は普及途上であった3Dプリンタを使ったミニチュア製作技術や、特殊カメラによる撮影技法などを学びました。これらの技術は後年、地質情報のビジュアライズを行う上で大きく役立つことになります。このように、筑波大学で地球科学と3D技術とを同時に学習した経験が、現在の私の研究内容に大きな影響を及ぼしました。また妻とはこの研究会で出会い、公私共に重要なパートナーとなっています。

大学院では、研究テーマに微化石(有孔虫)を加え、現在は神戸大学で教鞭をとられている大串健一先生にご指導いただきながら、北太平洋沖の水深約1000m地点で採取された3本の海洋底コアから浮遊性有孔虫・底生有孔虫を約10万個体にわたって抽出し、過去2万年間の古環境変動について解析しました。最終氷期~現在までのダイナミックな環境変動は非常に刺激的で、なおかつ古生物を統計情報として扱う研究手法を学べたことは幸運でした。また国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の海洋調査船「みらい」に乗船し、アラスカ沖での調査を行ったことも、良い経験となりました。

博士課程の終盤にさしかかり、研究に一区切りが見えてきた段階で、自分の研究内容を、より分かりやすい形で可視化したいと考えるようになりました。そこで、学部時代に開発した三次元造型技術を駆使して海洋底の立体模型を造型し、コアの発掘地点や古環境変動の情報などをフルカラーの精密模型として造型して、博士論文の発表や学会発表に利用しました。

その後、国立研究開発法人産業技術総合研究所の特別研究員を経て、地質標本館で念願の博物館業務に従事し、国内外において化石の3Dデータ計測などの研究に携わると同時に、これまで開発した技術を博物館の展示物開発に応用し、さらなる研究開発と特許化を行っています。また2016年8月にはこの特許をもとに、学術データの可視化技術を研究する産総研ベンチャー「地球科学可視化技術研究所」を設立し、言語地理学や考古学分野とも共同発表を行うなど、分野融合的なプロジェクトをスタートさせました。

今思えば、こうした研究活動の基礎はすべて、筑波大学における自由かつ学際的な環境と、多彩な人々との出会いによって作られたと感じています。在学生の皆様には、ぜひこの環境を楽しみつつ、独創的な活動をしていただきたいと願っています。

中東オマーンでの調査風景(厚歯二枚貝化石でできた小山)