卒業生の声

社会で活躍されている卒業生・修了生の活動を紹介します。

No.04 深澤 晋作 FUKAZAWA Shinsaku
独立行政法人国際協力機構(JICA)マレーシア事務所



地球環境科学研究科

経歴

2003 筑波大学地球環境科学科 卒業
2003 独立行政法人国際協力機構 入構

私は現在JICA(独立行政法人国際協力機構)マレーシア事務所に勤務しています。

マレーシアと言うと、特に一度でもお越しいただいたことのある方には、まだ日本からのODA(Official Development Assistance:政府開発援助)が必要なの?と不思議に思われる方も多いと思います。(ちなみにJICAは日本政府の行うODAの実施機関です。)確かにクアラルンプールを歩くと一時は世界一高かったペトロナスツインタワーや一流ブランド品が並ぶ大型ショッピングモール、そして自動化された高速自動車道のゲートなど、先進国ではないかと思われる風景が多々あります。

実際、マレーシアはマハティール元首相の掲げた“2020年に先進国入りする”と言う目標に向けて国を挙げて経済開発を進めており、2015年度の個人あたりのGDPは既にUSD11,050.(IMF)と、いわゆる高所得国の所得水準であるUSD15,000.に近づきつつあることも事実です。

それでは、私はここでいったい何をしているのでしょうか?

ここで国際協力の意義を語り始めるとこのコーナーの意図と外れてしまいそうなので、私の実際の仕事を紹介したいと思います。

まず、この原稿を書くきっかけとなった仕事です。

国際開発の業界では、“中所得国の罠”という言葉がよく使われます。JICAではマレーシアがその罠にかからず、健全な発展を遂げられるよう、先進国入りを目指す上での課題となる産業人材の育成や高等教育の発展支援の為、そしてマハティール元首相の唱えた東方政策の集大成として、日本式の工学教育をマレーシアで受けることが出来る教育機関“マレーシア日本国際工科院”(Malaysia‐Japan International Institute of Technology 略して MJIIT)の設立・発展を支援しています。このMJIITには筑波大学をはじめとして日本の26の大学や研究機関(2016年4月現在)がコンソーシアムを組み、日本からの先生の派遣やMJIITの運営などについてのサポートを行っています。現在MJIITには24名の日本人の先生が所属しています。また、それとは別にそれぞれの大学でも個別に連携を深めています。ちなみに筑波大学は結構立派な事務所をMJIIT内に構えており、今年の4月、筑波大学生命環境系の環境防災棟内にもMJIIT事務所が開設され、イドリス・マレーシア高等教育大臣と永田学長列席のもとに開所式が行われたと聞いています。

筑波大学―MJIITつくばオフィス

ある日、MJIITでの会議の後、“Stadium Negara”(国立競技場)と言う名の中華料理屋で打ち上げをしているなかで、地球環境科学出身ということで盛り上がり、翌日、投稿依頼のメールを受け取ることとなりました。

なお、現在筑波大学とMJIITはダブルディグリーの制度を作り上げたばかりで、来年度から日本の大学では初の試みとなる講義科目の受講を伴う修士課程のジョイントディグリーの制度をMJIITと実施することがすでに決まり、実質的なプログラムとしてゆくために密な協議を進めています。筑波大学は海外からの留学生受け入れなど海外との繋がりの強い大学と感じますが、この制度を利用して反対に多くの筑波大生にも海外に出てきてもらいたいと感じています。

マレーシアは65%のマレー人、25%の中国人、10%弱のインド人、そして20%強の外国人労働者(噂)、足して120%の民族のるつぼです。しかも穏健なイスラム国であることを考えると、これから世界に出てゆこうとする若い学生には丁度良い海外へのエントリーポイントではないでしょうか。

次に私個人の筑波大学との繋がりですが、筑波大学大学院地球環境科学研究科に入ったのは、一度社会人を経験した後でした。1990年に他の大学の農学部を卒業し、商社の木材部で10年ほど働き、その後離職して環境科学研究科に入学しました。環境科学研究科では中村徹先生、上條隆志先生の下、森林生態系を学びました。指導していただいた上條隆志先生は同年齢であったことから、さぞやりづらかったのではないかと思いますが、大変お世話になりました。また野外調査実習の名のもと、屋久島でのキャンプ生活や登山は忘れられない思い出になりました。今でも何かあると連絡を取り合えるかなり年下の仲間がいるのは、この実習のお蔭で、私にとって大切な経験となりました。

JICAに入ってからは当時の無償資金協力部、パキスタン事務所、JICA札幌、地球環境部を経て現在のマレーシア事務所に配属となっています。これまでJICAでは幸せなことに概ね自分の希望した環境分野の業務についています。特に地球環境部では自然環境グループで中部アフリカや中南米の森林や生物多様性の保全に関する仕事をすることが出来、感謝しています。あくまで私の意見ですが、私が入った当時、JICAはジェネラリストであり、専門性は必要ないといった風潮があったような気がしますが、最近は個々人の専門性も考慮された人事になっているように感じます。

この様に、これまで海外と係る仕事を続けてきましたが、最近海外に出て感じることは、どんどん日本の姿が小さくなっているのではないということです。以前は日本のやりすぎが懸念されましたが、今では中国や韓国、そして東南アジアの中進国にとってかわられています。今はテロの脅威など、積極的に海外に出てゆける環境ではないのかもしれませんが、注意はしつつも、あまり敷居を高くせず、勢いで海外に出てゆく人たちが増え、海外と交流する層が厚くなることが本当は理想ではないかと思います。最後に私からのお願いとして、これからの社会生活の方向に迷っている方は、あまり難しく考えず、海外へ出ることも選択肢の一つとして考えてみてください。きっと、どうにかなります。

マレーシアでお待ちしております。Jumpa Lagi(それでは、また。)